「外注先から『AIを使って開発してもいいですか?』と聞かれたんですけど、どう判断すれば……」

前の職場で、この相談を何度も受けました。

聞いてくるのは、開発を外注している部門の担当者さんです。

気持ち、分かります。社員向けのAI利用ルールはある。でも外注先のAI利用のことは、どこにも書いていない。

こんにちは、だらリーヌです! ぼくは前の職場で全社のAIガバナンス(AIを安全に使うための決まりごと一式)を担当していました。いまは製造業の会社で、AI活用の推進をやっています。

じつはぼく自身、この相談が初めて来たとき、固まりました。

作る側でもない、使う側でもない、基準のどこにも書いていない第3の箱だったからです。

きょうは、審議でたどり着いた「外注先のAI利用」の考え方を、発注側と、聞かれるフリーランス側の両方から書きます。

慌てて新ルールを作る前に、契約を見てください

AIだから機密保持義務がなくなるわけではありません。

これが、きょうの記事の芯です。

取引先とは、基本取引契約(取引を始めるときに交わす、おおもとの契約)を結んだうえで仕事をしていますよね。

その契約には、ふつう機密保持の取り決めが入っています。

「AIという新しいものが来た。新しいルールを作らなきゃ!」

分かります。ぼくも最初はそっちに傾きかけました。

でも審議の決着は逆でした。

まず、すでにある機密保持の約束の範囲内で扱う。外注先がAIを使おうが使うまいが、預かった情報を守る義務は最初から変わっていないんです。

ただし、AIには従来のツールと違う論点があります

「じゃあ確認ゼロでいいの?」

そうでもありません。

たとえば、あなたの会社が渡した仕様書を、外注先がAIに入力したとします。

そのデータ、AIサービス側でどう扱われるんでしょうか。

ここが、AIが従来のツールと違うところです。そこで審議では、必要に応じてこの4点を個別に確認する、という整理になりました。

  1. どのAIサービスを使うのか
  2. こちらの機密情報を入力する可能性があるか
  3. 入力データがモデルの学習などに使われない設定・契約になっているか
  4. AIサービス側でデータがどう扱われるのか

基本取引契約の機密保持義務が大きな傘として全体を覆い、その内側にAI特有の確認4点(どのAIサービス・機密情報を入力するか・学習に使われない設定か・データの扱い)が並ぶ。新しい規程はいらない、既存の契約で受け止めて4点だけ上乗せ確認、という図解

新しい規程は作らない。既存の契約で受け止めて、AI特有の4点だけ上乗せで確認する。

ぼくはこの整理、いまでも一番筋がいいと思っています。

「うちの外注はAI関係ない」が、たぶん関係あります

「プログラム開発の話でしょ? うちは関係ないかな」

そう思った方、ちょっと待ってください。

AIが使われる可能性が高い外注仕事は、たとえばこれだけあります。

  • プログラム・システム開発
  • 翻訳
  • 仕様書・技術文書の作成
  • 企画・設計資料の作成
  • PowerPointなどの資料作成・デザイン
  • Webサイトの制作・管理

翻訳、資料作成、Webサイト。心当たり、ありません?

前の職場では、こうした仕事を外注している部門に対して「外注先のAI利用に注意してくださいね」と注意喚起を回しました。

聞かれてから考えるより、発注している側が先に気にしておく話なんです。

フリーランス側から見ると、聞かれているのは「使ってるか」ではありません

ここからは、聞かれる側の話です。

企業から仕事を受けているフリーランスの方が「AIを使っていますか?」と聞かれたとき。

正直、ドキッとしますよね。

でも、発注者が本当に気にしているのはそこではありません。

聞かれているのは「AIを使っていますか」ではなく、「AIをどう管理して使っていますか」です。

さっきの4点を思い出してください。発注側が知りたいのは、預けた情報の行き先です。

だから、自分が仕事で使うAIを棚卸ししておくといいです。整理するのは、たとえばこの6つ。

  • 使っているAIサービス
  • 契約しているプラン
  • 学習利用・データ利用に関する設定
  • 機密情報を入力するかどうか
  • AIが作ったものを人間が確認するルール
  • 顧客からAI利用について指定された場合の対応

A4一枚の「AI利用方針」くらいの形にまとめておけば、聞かれたその場で出せます。

A4一枚「AI利用方針」の見本。使っているAIサービス・契約しているプラン・学習利用とデータ利用の設定・機密情報を入力するかどうか・AIが作ったものを人間が確認するルール・顧客からの指定への対応の6項目が、記入例つきの記入欄で並ぶ

質問が来てから慌てて書くのと、先に一枚あるのと。説明のしやすさが違いますし、審議する側から見ても、こういう相手は話が早いです。

今だから、この準備に意味があります

「そのうちAIなんて、みんな使うようになるでしょ」

ぼくもそう思います。

将来的には、AIを使うことはPCやOfficeを使うのと同じくらい当たり前になっていくはずです。そうなれば「AI使ってます」だけで特別に確認されることも減るでしょう。

ただ、いまは違います。

AIを使う人と使わない人、会社ごとのルール、サービスごとのデータの扱い。ぜんぶが混ざった過渡期です。

だから今は、「AIを使っています」で止まらず、「AIを適切に管理して使っています」まで説明できることが、発注者側の安心材料になります。

AIスキルそのものより、この説明ができることのほうが、いまの取引では差になる。ぼくはそう見ています。

この考え方が通用する条件

3つだけ、線を引いておきます。

まず、契約の中身は会社ごと・取引ごとに違います。機密保持の条項が実際にどう書いてあるかは、原文が正です。判断に迷ったら、契約や法務の担当部門に相談してください。

次に、あなたの会社に外注先のAI利用のルールがすでにあるなら、そちらが正。この記事は「まだ決まっていない会社」の考え方の入口です。

最後に、そもそも何をAIに入れていいかの判断は、外注先だけでなく自分にも返ってくる話です。

想定問答: 実際のやり取りで聞かれる3つ

Q1. 面倒だから、外注先には「AI禁止」と言っておけばよくない?

その判断もあり得ます。ただ、前の職場の審議の決着は禁止ではありませんでした。AIだからといって、特別扱いしなかったからです。

さっきのリストのとおり、AIが入り込む外注仕事はもう幅広いです。一律禁止で押し切るより、管理を確認するほうが現実的だと、ぼくは思っています。

Q2. 機密情報を渡していない外注なら、確認しなくていい?

確認の重さは、預けるものの重さで変わります。

4点のうち「機密情報を入力する可能性があるか」が入口です。渡していないなら、詳細な確認は不要ですが、機密情報を渡さない仕事はそうそうないと考えます。

1点!AIが作ったものを人間が確認しているか、という成果物の質の話は残ります。そこは機密と別の軸で見てください。

Q3. フリーランスです。正直に「AI使ってます」と答えたら、仕事が減りそうで怖いんですが。

わかります。ただ、隠すほうがデメリットが多いな、とぼくは思います。

発注側が知りたいのは、AIの管理、情報の取り扱いです。「使っています。設定と機密の扱いはこうです」と一枚で説明できる人は、むしろ安心して頼める相手です。

過渡期のいまは、それが強みになると発注者視点からも思います。

まとめ: きょうの一歩は、どちらの側でも1行です

発注する側のあなたは、外注に出している仕事を1つ思い浮かべて、さっきのリストと見比べてみてください。「これ、AI使われそうだな」に気づくところからです。

仕事を受ける側のあなたは、使っているAIサービスの名前とプランを、メモに1行書いてください。それがA4一枚の棚卸しの1行目になります。

「外注先とこんなやり取りになった」というあるあるがあれば、ぜひ聞かせてください。次の記事のネタにさせてもらいます!