「AIをどんどん使っていこう!」

会社でも、ニュースでも、いまこの空気一色ですよね。

でも、ふと思いません?

「じゃあ、使っちゃいけないAIって、あるの?」

あります。しかも、もう法律で決まっています。

こんにちは、だらリーヌです! いまは製造業の会社でAI活用の推進を任されていて、前職では全社のAIガバナンス(AIを安全に使うための決まりごと一式)づくりを担当していました。「使おう」の旗振りと「使うな」の線引き、両方やってきた人間です。

決めているのは、EUのAI規制法(EU AI Act)。その第5条に「禁止されるAI」がはっきり書かれています。

EUの法律なので、日本で働くぼくらに今日明日で直撃する話ではありません。それでも知っておいてほしい理由は、後半で書きます。

今日は禁止AIの代表例を5つ、なるべくわかりやすく並べます。並べ終わったとき、たぶんあなたはこう思うはずです。

「そりゃダメだろ」

その感覚にこそ、EUがAIの何を怖がっているのかが出ています。

前提: AIは「リスクの重さ」で4段階に分かれています

EU AI Actは、AIを使い方のリスクで4段階に分けています。

  • 禁止されるAI
  • ハイリスクAI
  • 透明性義務が課されるAI
  • 最小限のリスクのAI

リスクの4段ピラミッド。頂点が「禁止されるAI」で、ハイリスクAI・透明性義務が課されるAI・最小限のリスクのAIと下に行くほど規制が軽くなる。段階を決めるのはAIそのものではなく使い方、という図解

「AIだから全部危険」でもなければ、「AIだから何をやってもいい」でもない。同じAI技術でも、使い方で規制の重さが変わるわけです。

前職の会議では、「ハイリスクAIの定義、何だっけ。……あれ、禁止AIと何が違うんだっけ」と、毎回みんなこんがらがっていました。

今日はその頂点、いちばん重い「禁止」の話です。

禁止①: 人間を、気づかないうちに操るAI

サブリミナル的な手法(本人が知覚できない刺激で働きかける手法)などで人間の意思決定をゆがめ、重大な害につながるようなAIです。

「本人が気づかないところで、AIに行動を操られる」やつ。

広告で「あなたへのおすすめ」が出てくる程度の話は、ここに入りません。禁止ラインは、人間の意思決定能力を大きく損なわせるレベルの操作です。

禁止②: 顔写真を、手当たり次第に集めるAI

インターネットや監視カメラの映像から顔画像を無差別にかき集めて、顔認識データベースを作ることです。

Web上の大量の顔写真を収集して、顔認識用のデータベースを構築する。そういう使い方が名指しされています。

ここでのポイントは範囲です。顔認証という技術まるごとの話ではなく、禁止されているのは「無差別に集めてデータベースを作る」行為。ここに線が引かれています。

禁止③: 人間に点数をつけて、不利益を与えるAI

いわゆるソーシャルスコアリング。人の行動や特徴から「この人は何点」と評価して、その点数で不当な・不釣り合いな不利益を与える使い方です。

ここ、少しややこしいんです。

「え、じゃあ採用でAIが候補者を評価するのもアウト?」

そこは別枠です。採用のような重要な意思決定に使うAIは、ひとつ下の「ハイリスクAI」として厳しいルールの対象になる場合がある。「人を点数化したら即禁止」まではいきません。

禁止まで行くのは、社会的な行動などを広く評価して、不当な不利益につなげるようなスコアリングです。

禁止④: 人の弱みに、つけ込むAI

年齢、障害、社会的・経済的な状況。そうした弱い立場につけ込んで本人の行動を大きくゆがめ、重大な害を与えるAIです。

問題にされているのは、AIの能力の高さより、「人間の弱い部分を狙って操作する」ことのほう。

禁止⑤: 「こいつは犯罪を犯しそう」を、AIだけで決める

プロファイリング(人物像の分析)や性格・特徴だけを根拠に、「この人は将来犯罪を犯しそう」とリスクを予測・評価する使い方です。

映画で見たやつだ、と思いますよね。ちゃんと条文の禁止対象に入っています。

ただし、犯罪予測へのAI利用まるごとの一律禁止まではいきません。客観的で検証可能な事実に基づいて、人間の評価を支援するような使い方には例外があります。

並べてみて、どう思いました?

「そりゃダメだろ」

ですよね。ぼくも並べるたびに、そう思います。

5つに共通しているのは、AIが人間の意思・尊厳・権利に強く割り込んでくることです。

禁止5例(気づかないうちに操る・顔写真を手当たり次第に集める・人間に点数をつけ不利益を与える・人の弱みにつけ込む・犯罪予測をAIだけで決める)のカードが並び、中央に共通点「AIで人間をどう扱うか」を置いた図解

だからEU AI Actの禁止リストは、危険な技術のリストというより、「AIを使って、人間にここまでやっちゃダメ」という線引きのリストです。

AI規制を読み始めるなら、ぼくはこの第5条からをおすすめします。条文の中でいちばん、「そりゃそうだ」と納得しながら読めるからです。

ただし、面白いポイントがひとつ

ここまで読んで、こう聞きたくなりません?

「じゃあ、軍事利用は?」

軍事・防衛・国家安全保障のみを目的とする一定のAIは、EU AI Actの適用対象外です。

……えっ。

これ、「禁止AIだけど軍事なら特別にOK」という整理ではありません。「軍事利用目的などのAIには、EU AI Actという法律をそもそも適用しない」という整理です。土俵の外、というやつです。

人間をここまで守る、と線を引いた法律にも、届かない領域がある。禁止AIを知ると、EUがAIの何を怖がっているのかと同時に、法律がどこまでしか守れないのかも見えてきます。

で、日本のぼくらに関係あるの?

正直に言うと、EUで発売する製品・サービスに関わっていないなら、第5条があなたの仕事に直撃することは当面ありません。

詳しく追うのは発売国だけでいい、EUだけは速報を横目で拾う。ぼくの法規制の追い方は、禁止AIでも変わりません。

それでも今日この話を書いたのは、この禁止リストが「AIとの付き合い方」のいちばんわかりやすい教材だと思っているからです。

会社でAIのルールを考えるときも、結局悩むのはAIの性能ではないんですよね。「AIで人間(従業員やお客さん)をどう扱うか」。悩みどころは、EUの偉い人もぼくらも同じです。

今日の一歩

覚えるのは、これだけでいいです。

「使ってはいけないAI、もう法律で決まってるんだって。共通点は、人間の扱い方」

明日、AIの雑談や会議でこれを言えるようにしておく。5つ全部は要りません。「顔写真の無差別収集」と「ソーシャルスコアリング」の2つが言えれば、十分です。

このサイトでは、AIのルールを現場語訳する記事をこれからも書いていきます。続きはSubstackでも配信していきます。あなたの会社の「AIルールあるある」も、返信でぜひ教えてください!