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禁止されるAI 実務ガイド

EU AI法 第5条で禁止されるAIの使い方を、号ごとに整理したページ。「何が禁止か」「境界線(当たりうる例・当たらない例)」「例外」に分け、条文(規則 (EU) 2024/1689・改正規則 (EU) 2026/1744)と欧州委員会のガイドラインに沿って説明します。

最終確認 2026-10-11(条文・欧州委員会の公式ページで確認)

このページは一般的な情報の整理で、法的助言ではありません。「当たりうる例」「当たらない例」は、欧州委員会のガイドラインかAI法の前文に載っている例の要約です。どの例も、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。ガイドラインに法的拘束力はなく、最終的な解釈は欧州連合司法裁判所(CJEU)が行います。自分で作った例には「架空の例」と付けています。実際の判断は一次資料と専門家の確認を経てください。

目次
  1. 0. このページの使い方
  2. 1. 全体像: 第5条の一覧
  3. 2. (a) サブリミナル・操作的・欺瞞的な手法
  4. 3. (b) 弱み(脆弱性)の悪用
  5. 4. (c) 社会的スコアリング
  6. 5. (d) 犯罪リスクの予測(プロファイリングだけに基づくもの)
  7. 6. (e) 顔画像の無差別収集による顔認識データベース
  8. 7. (f) 職場・教育機関での感情の推定
  9. 8. (g) 生体分類による機微な属性の推定
  10. 9. (h) 公共の場所でのリアルタイム遠隔生体識別(法執行)
  11. 10. (ba)(bb) 改正で追加された禁止(2026年12月2日から)
  12. 11. 日本企業が気をつけたい場面
  13. 12. 罰則と執行
  14. 13. よくある質問
  15. 14. 出典一覧・更新履歴

0. このページの使い方

  • 第5条は、EUで市場に出す・使用を開始する・使うことが禁止されるAIの使い方を列挙しています。(a)〜(h) の8つは、2025年2月2日から適用されています。改正で加わった (ba)(bb)(同意のない性的な画像などと、児童性的虐待素材の生成)は、2026年12月2日から適用されます。
  • 違反の罰金の上限は、3,500万ユーロか全世界年間売上高の7%の高い方で、AI法で最も重い区分です(第99条3項)。
  • どの号も、条文の条件が全部そろったときだけ禁止に当たります。禁止に当たらなくても、高リスクAIの規制や、GDPR・消費者法など他のEU法がかかる場合があります。
  • 例は主に、欧州委員会の「禁止されるAIの慣行に関するガイドライン」(2025年2月4日公表)から取り、段落番号を付けています。ガイドラインは改正より前のものなので、(ba)(bb) の例は改正規則の前文から取っています。

1. 全体像: 第5条の一覧

(a)

禁止される内容(平易に)
意識できないサブリミナル手法や、意図的に操作的・欺瞞的な手法で、人の情報に基づく判断の力を大きく損なって行動をゆがめ、重大な害を生む(生むおそれが高い)
禁止される行為
市場に出す・使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(b)

禁止される内容(平易に)
年齢・障害・特定の社会的または経済的な状況による弱みにつけ込んで行動をゆがめ、重大な害を生む(生むおそれが高い)
禁止される行為
市場に出す・使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(ba)

禁止される内容(平易に)
特定できる実在の人の性的な部位や性的行為の、本物らしい画像・映像・音声などを、本人の明確な同意なく生成・加工する(改正で追加)
禁止される行為
市場に出す・使用開始・使用(どんな場合に禁止かは第5条1a項で限定)
適用開始
2026-12-02

改正規則2026/1744 第1条

(bb)

禁止される内容(平易に)
児童性的虐待素材(指令 2011/93/EU 第2条(c)・(e) の素材・実演)を生成・加工する(国内法の「without right」の抗弁が適用される場合を除く。改正で追加)
禁止される行為
市場に出す・使用開始・使用(同上)
適用開始
2026-12-02

改正規則2026/1744 第1条

(c)

禁止される内容(平易に)
社会的なふるまいや個人・性格の特徴で人を一定期間にわたって評価・分類し(社会的スコアリング)、そのスコアで、データと無関係な場面での不利な扱い、または不当・不釣り合いな不利な扱いをする
禁止される行為
市場に出す・使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(d)

禁止される内容(平易に)
プロファイリングや性格特性・特徴の評価だけに基づいて、人が罪を犯すリスクを評価・予測する(犯罪への関与について、客観的で検証できる事実に基づいてすでに行われている人の評価を支えるものは除く)
禁止される行為
市場に出す・この目的での使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(e)

禁止される内容(平易に)
インターネットや防犯カメラ(CCTV)の映像から顔画像を無差別に集めて、顔認識データベースを作る・広げる
禁止される行為
市場に出す・この目的での使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(f)

禁止される内容(平易に)
職場と教育機関で人の感情を推定する(医療・安全上の理由のためのものは除く)
禁止される行為
市場に出す・この目的での使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(g)

禁止される内容(平易に)
生体データで個人を分類して、人種・政治的意見・労働組合への加入・宗教や思想信条・性生活や性的指向を推定する(適法に取得した生体データセットのラベル付け・フィルタリング等は除く)
禁止される行為
市場に出す・この目的での使用開始・使用
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

(h)

禁止される内容(平易に)
法執行のために、公共の場所で「リアルタイム」の遠隔生体識別を使う(3つの目的で厳格に必要な場合の例外と手続きあり。第5条2〜7項)
禁止される行為
使用のみ
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条AI法 第113条

欧州委員会の AI法のページは、(ba)(bb) をまとめて1つと数え、禁止を「9つ」と説明しています。

共通の読み方

どの号も、条文の条件をいくつも組み合わせたものです。欧州委員会のガイドラインは、各号の条件がすべて同時に満たされたときに禁止が適用されるとしています。罰則が最も重いので、禁止の範囲は狭く解釈すべきだともしています(段落57・61など)。禁止は、提供者(市場に出す側)と導入者(使う側)の両方に、それぞれの役割の範囲でかかります。特定の用途のAIだけでなく、さまざまな用途に使える汎用AIシステムにもかかります(段落39)。

高リスクAIとの関係

ガイドラインによると、禁止の例外に当たるAIの多くは高リスクAIになります。たとえば、禁止に当たらない感情認識システムは附属書III 1(c) の高リスクAIです。逆に、附属書III の用途でも第6条3項で高リスクから外れたAIは、第5条の禁止の対象からは外れません(段落37〜38)。

そもそもAI法の対象外になる場面

  • 軍事・防衛・国家安全保障の目的だけに使うAI(第2条3項)
  • 科学的な研究開発だけを目的に開発・使用開始されたAI(第2条6項)
  • 市場に出す・使用を開始する前の研究・試験・開発(実環境での試験は除外されない。第2条8項)
  • 個人が純粋に私的で職業外の活動として使う場合の、導入者の義務(第2条10項)
  • 無料・オープンソースのライセンスで公開されたAIシステム。ただし、第5条に当たるAIシステムや高リスクAIなどとして市場に出す・使用を開始する場合は除外されない(第2条12項)

欧州委員会の「禁止されるAIの慣行に関するガイドライン」は、2025年2月4日に公表されました。現在掲載されている英語版は、2025年7月29日付の C(2025) 5052 です。委員会自身が、ガイドラインに法的拘束力はなく、権威ある解釈は欧州連合司法裁判所(CJEU)が行うとしています。ガイドラインは改正規則 (EU) 2026/1744 より前のものなので、(ba)(bb) は扱っていません。

出典: AI法 第5条AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条欧州委員会AI法 第6条AI法 附属書IIIAI法 第2条

2. (a) サブリミナル・操作的・欺瞞的な手法

何が禁止か

次の4つがそろうと禁止です。(1) AIシステムを市場に出す・使用を開始する・使う。(2) 意識の外で働くサブリミナル手法、意図的に操作的な手法、欺瞞的な手法のどれかを使う。(3) その目的または効果として、人の情報に基づく判断の力を大きく損ない、そうでなければしなかった判断をさせて、行動を大きくゆがめる。(4) その結果、本人・他人・集団に重大な害を生む(または生むおそれが高い)。ガイドラインは、手法・行動のゆがみ・害の間にもっともらしい因果関係が必要だとしています(段落60〜61)。

意図は要らない・害は「重大」であること

「目的」だけでなく「効果」も対象なので、提供者や導入者に行動をゆがめる意図がなくても当たる場合があります。重大な害を生む意図も要りません(前文29)。一方で、AIの外の要因によるゆがみで、提供者や導入者が予見できず手の打ちようがないものまでは問われないとされています(前文29、ガイドライン段落96)。重大な害の目安としてガイドラインが挙げるのは、害の重さ・状況と積み重なり・規模・影響を受ける人の弱さ(子ども・高齢者・障害のある人など)・続く期間と元に戻せるかです(段落92)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
短い映像の差し込みや聞こえない音声信号などのサブリミナル手法で、利用者に重大な金銭的な害のある購買判断をさせるよう設計されたチャットボット(段落82)

欧州委員会

当たりうる例

例
合成音声で家族や友人になりすまし、詐欺で重大な金銭的な害を生むチャットボット(段落73)

欧州委員会

当たりうる例

例
健康づくりを助けるはずのチャットボットが、利用者の弱みにつけ込み、休まず水も飲まずに過度な運動をさせるなど危険な行動を促す。提供者に意図がなくても、適切な予防策をとっていなければ当たる場合がある(段落84)

欧州委員会

当たりうる例

例
感情をひそかに推定して利用者が買いやすい瞬間を見計らい、高い商品を勧める広告(ガイドラインは「操作」の例として挙げる。禁止には重大な害などほかの条件も必要)(段落129)

欧州委員会

当たらない例

例
仕組みが分かるアルゴリズムと、利用者の好み・設定に基づくおすすめ(説得の範囲。段落128)

欧州委員会

当たらない例

例
生成AIがたまたま誤った情報を出す(ハルシネーション)場合。提供者が限界を利用者に知らせ、適切な安全策を入れ、健康・教育・選挙などの影響の大きい場面向けでないとき(段落73)

欧州委員会

当たらない例

例
サイバーセキュリティ研修で、フィッシングをまねて一時的に操作的な手法を使う(重大な害がない。段落134)

欧州委員会

当たらない例

例
適用法と医療基準に従い、本人の明示的な同意などを得て行う、心理療法やリハビリでの使用(前文29、段落132)

AI法 前文29欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

広告・パーソナライズはどうか

前文29は、適用法に従った広告などの一般的で正当な商行為は、それだけで有害な操作とみなすべきではないとしています。ガイドラインも、好みに基づく広告のパーソナライズは、原則として本質的に操作的ではないとしています。ただし、サブリミナル・操作的・欺瞞的な手法を使わず、弱みに有害な形でつけ込まない場合に限ります。GDPR・消費者法・デジタルサービス法(DSA)を守ることがリスクを下げる、ともしています(段落133)。

透明性義務(第50条)との関係

チャットボットであることの通知やディープフェイクの表示は、欺瞞のリスクを下げる手段です(第50条)。ガイドラインによると、第5条1項(a) の範囲は第50条よりずっと狭いものです。たとえば、表示がないままチャットボットや生成コンテンツが虚偽・誤解を招く情報で人をだまし、行動をゆがめる場合が対象になる可能性があります(段落71〜72)。

出典: AI法 第5条欧州委員会AI法 前文29AI法 第50条

3. (b) 弱み(脆弱性)の悪用

何が禁止か

年齢・障害・特定の社会的または経済的な状況による弱みにつけ込むAIが対象です。その目的または効果として行動を大きくゆがめ、本人や他人に重大な害を生む(生むおそれが高い)場合に、市場への提供・使用開始・使用が禁止されます。ガイドラインによると、(a) と違って「判断の力を大きく損なう」ことは条件になっていません(段落113)。重大な害の考え方は (a) と同じです(段落114)。

対象になる弱み

対象になる弱みは、年齢(子どもと高齢者の両方)・障害・特定の社会的または経済的な状況に限られます。社会的・経済的な状況について、前文29は、極度の貧困の中で暮らす人や、民族的・宗教的少数者を例に挙げています。ガイドラインは、一時的な失業・多重債務・移民としての地位も含まれる場合があるとしています。一方、孤独など誰にでも起こる状況は、(b) ではなく (a) で扱われる場合があるとしています(段落104・109)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
報酬と引き換えに、家具に登るなど危険な挑戦を子どもに促すAI搭載のおもちゃ(段落105)

欧州委員会

当たりうる例

例
子どもの行動を分析し、予測できない報酬で過度で強迫的なプレイを促すように設計されたゲーム(段落105)

欧州委員会

当たりうる例

例
認知能力の低下につけ込み、高齢者に欺瞞的な個別の勧誘や詐欺を行い、重大な金銭的な害を生む(段落106)

欧州委員会

当たりうる例

例
低所得の地域に住み経済的に苦しい人を狙って、略奪的な金融商品の広告を出す予測アルゴリズム(段落110)

欧州委員会

当たらない例

例
子どもの学習やゲームを支えるAI、高齢者の日常生活を助ける個人アシスタントや支援ロボット、障害のある人の利用の壁を取り除くAI(段落121)

欧州委員会

当たらない例

例
金融・消費者保護・データ保護・差別禁止の法令に従い、年齢や社会経済的な状況を入力に使って、弱い立場の顧客を守り支えるように設計された住宅ローン・融資のAI(段落133)

欧州委員会

当たらない例

例
学習データの偏りで、意図せず社会的に不利な人に不利に働くAI。それだけで自動的に「つけ込み」には当たらないとされる。ただし、違法な差別を知りながら是正しなければ、当たる場合がある(段落110)

欧州委員会

当たらない例

例
持っている電話の機種、住んでいる都市の大きさ、旅行の頻度など、特定の社会的・経済的状況を決めるわけではない変数でのターゲティング(段落111)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

ガイドラインによると、(a) と (b) は次のように使い分けます。弱みに関係なく働く手法なら (a)、年齢・障害・特定の社会的または経済的な状況による弱みを狙う場合は (b) です(段落124〜125)。

出典: AI法 第5条欧州委員会AI法 前文29

4. (c) 社会的スコアリング

何が禁止か

次の3つがそろうと禁止です。(1) AIシステムを市場に出す・使用を開始する・使う。(2) 社会的なふるまい、または既知・推定・予測された個人や性格の特徴に基づいて、人や集団を一定期間にわたって評価・分類する。(3) そのスコアが、次の (i)(ii) のどちらか(または両方)の不利な扱いにつながる。(i) データが生まれた・集められた場面と無関係な場面での不利な扱い。(ii) ふるまいやその重さに比べて不当・不釣り合いな不利な扱い。公的機関か民間かは問いません(ガイドライン段落149・170)。

読み方のポイント

ガイドラインによると、スコアは数値・順位・ラベルなど、どんな形でもかまいません(段落151)。また、一回きりの評価ではなく、一定期間のデータに基づくことが前提です(段落155)。AIのスコアが不利な扱いの唯一の原因である必要はありませんが、最終判断で十分に重要な役割を果たしていることが必要です(段落161)。対象は人で、法人の評価は原則として対象外です(段落173)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
税務当局が、所得や資産などの関係するデータに加えて、納税者の社会的な習慣やインターネット接続など無関係なデータで調査対象の個人を選ぶ((i) の例。段落166)

欧州委員会

当たりうる例

例
生命保険会社が、加入審査と関係のない銀行の支出情報などをAIで分析し、契約の拒否や保険料の引き上げを勧める(段落170)

欧州委員会

当たりうる例

例
自治体が、多数のデータで住民の「信頼度」を採点し、低い人の公的給付の打ち切りなどにつなげる。データには、ボランティア不足や図書の返却遅れ、収集日以外のゴミ出しなどの軽い行為も含む((ii) の例。段落167)

欧州委員会

当たらない例

例
収入・支出などの財務状況に基づき、消費者法に沿って行う信用スコアリング(段落177)

欧州委員会

当たらない例

例
取引行動など、不正の判定に客観的に関係するデータで行う不正検知(段落177)

欧州委員会

当たらない例

例
テレマティクス保険で、速度超過などの危険運転のデータに応じて、保険料をそのリスクに見合った範囲で上げる(段落177)

欧州委員会

当たらない例

例
購入が多く返品率が低い利用者に返品手続きの優遇を与えるネット通販。ほかの利用者も通常の返品手続きは使える(段落177)

欧州委員会

当たらない例

例
配車の運転手や宿泊サービスのホストへの利用者の評価を、単に集計するだけのもの(AIでほかの情報と組み合わせて分析しない限り。段落174)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

高リスクAIとの関係

禁止に当たらない信用評価や、生命・医療保険のリスク評価・価格設定のAIは、附属書III 5(b)・(c) の高リスクAIになります(ガイドライン段落37)。ガイドラインによると、当局の確認の際には、提供者と導入者がそれぞれの役割の範囲で次のことを示すことになります。使うデータの種類と出所、スコアを使う場面と関係するデータだけを使っていること、不利な扱いが正当で釣り合っていることです(段落171)。

出典: AI法 第5条欧州委員会AI法 附属書III

5. (d) 犯罪リスクの予測(プロファイリングだけに基づくもの)

何が禁止か

人が罪を犯すリスクを評価・予測するAIのうち、プロファイリング、または性格特性・特徴の評価「だけ」に基づくものが禁止です。前文42は、そうした特徴の例として国籍・出生地・居住地・子どもの数・借金の額・車の種類を挙げています。犯罪への関与について客観的で検証できる事実に基づく人の評価がすでにあり、AIがそれを支えるだけなら、禁止の対象外です(第5条1項(d))。ガイドラインによると、この対象外のAIを法執行機関(またはその代わりの者)が使う場合は、附属書III 6(d) の高リスクAIになります(段落185・204)。

民間企業も対象になるか

ガイドラインによると、法執行機関以外も対象になる場合があります。法律で公権力を任された民間の者、法執行機関に頼まれて個人の犯罪リスクを予測する民間企業、マネーロンダリング対策などの法的義務で犯罪リスクを評価する事業者です。一方、通常の事業や自社の利益を守るために顧客を評価し、犯罪との関係がたまたま付随するにすぎない場合は対象外としています(例: 財務上の不正の検知。段落207〜211)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
年齢・国籍・住所・車の種類・婚姻状況だけに基づいて、テロなどの犯罪を起こす可能性を予測する(段落202)

欧州委員会

当たりうる例

例
子どもや若者を、兄弟や友人など「リスクが高い」とされた人とのつながりで評価し、登録や追加の監視につなげる警察のツール(段落202)

欧州委員会

当たらない例

例
地域ごとの過去の犯罪率などから場所ごとの犯罪の起きやすさを予測し、パトロールの配置に使う(個人を評価しない)。ただし、場所のリスクを個人のプロファイリングに使うと、個人ベースとみなされる場合がある(段落212〜213)

欧州委員会

当たらない例

例
税関が、既知の密輸ルートなどから違法な物品のありかを予測する(前文42、段落212)

AI法 前文42欧州委員会

当たらない例

例
企業の取引や申告データから、法人が不正をするリスクを評価する(法人は対象外。ただし個人事業主など特定の個人を評価する場合は当たる場合がある。段落215〜216)

欧州委員会

当たらない例

例
軽い交通違反など、行政上の違反のリスクの予測(犯罪ではない。段落217)

欧州委員会

当たらない例

例
マネーロンダリング対策の法令に従い、法令が定める客観的で検証できるデータで顧客を選別し、人が評価・確認する(段落209)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

出典: AI法 第5条AI法 前文42AI法 附属書III欧州委員会

6. (e) 顔画像の無差別収集による顔認識データベース

何が禁止か

インターネットや防犯カメラ(CCTV)の映像から顔画像を無差別に集めて、顔認識データベースを作る・広げるAIは禁止です。禁止されるのは、市場への提供・この目的での使用開始・使用です。ガイドラインは、(1) 顔認識に使えるデータベースを作る・広げる目的、(2) 無差別な収集(スクレイピング)、(3) 画像の出所がインターネットかCCTV、という条件を挙げています(段落224)。データベースは顔認識「だけ」に使うものでなくてもよく、顔認識に使えれば足りるとされています(段落226)。

「無差別」とは

ガイドラインは「無差別」を、特定の人や集団に絞らず、掃除機のようにできるだけ多く吸い上げるやり方としています。robots.txt などのオプトアウトを守っても、無差別であることは変わりません(段落228)。本人がSNSに自分の顔写真を載せていても、顔認識データベースに入れることに同意したことにはならないとしています(段落232)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
SNSなどから顔が写った画像を自動で集めて顔の特徴を数値化・索引化し、アップロードされた顔写真と照合できるようにするサービス(段落232)

欧州委員会

当たりうる例

例
対象を少しずつ変えながら集め、結果として無差別収集と同じデータベースを作る(段落230)。絞った検索と無差別な検索を組み合わせる場合、無差別な部分は禁止(段落231)

欧州委員会

当たらない例

例
特定の人物(例: 特定の犯罪者)や、特定の被害者の集団に絞った収集(段落229〜230)

欧州委員会

当たらない例

例
顔写真を1枚受け取り、インターネット上で一致する顔を探す逆引き検索(ガイドラインは絞った収集とみなす。段落233)

欧州委員会

当たらない例

例
顔以外の生体データ(声など)の収集、AIを使わない収集(段落234)

欧州委員会

当たらない例

例
人を識別しない、AIモデルの学習・テスト用の顔画像データセット(段落234)

欧州委員会

当たらない例

例
大量の顔画像から、架空の人物の画像を生成するモデルを作る(実在の人を認識しない。第50条の透明性義務はかかる場合がある。段落235)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

ガイドラインによると、無差別収集で顔認識データベースを作る・広げることは、GDPR などのデータ保護法でも違法になります。頼れる法的根拠がないためです。禁止の適用前に作られ、その後AIで広げていないデータベースも、データ保護法には従う必要があります(段落236・238)。

出典: AI法 第5条欧州委員会

7. (f) 職場・教育機関での感情の推定

何が禁止か

職場と教育機関で人の感情を推定するAIの、市場への提供・この目的での使用開始・使用が禁止です。医療・安全上の理由のために導入・提供されるものは除かれます(第5条1項(f))。ガイドラインは、この禁止を生体データ(顔の表情・声・しぐさ・キーストロークなど)に基づく推定に限ると解釈しています。「感情認識システム」の定義(第3条39号)に合わせた解釈です(段落245・250〜251)。

何が「感情」か

前文18は、感情・意図の例として、喜び・悲しみ・怒り・驚き・嫌悪・当惑・興奮・恥・軽蔑・満足・面白さを挙げています。痛みや疲労などの身体の状態は含まれません。笑顔やしかめ面、手の動き、声の大きさなどの見て分かる表情・動作を検出するだけなら、感情認識ではありません。ただし、それを感情の推定に使えば当たります(前文18)。

職場・教育機関の範囲

ガイドラインは「職場」を広く捉え、オフィス・工場・店舗・屋外・車などの働く場所すべてと、採用選考中の候補者も含むとしています(段落254)。「教育機関」は公立・私立を問わず、すべての段階(職業学校や継続教育を含む)とオンラインを含みます。入学の選考中の候補者にも及ぶとしています(段落255)。

医療・安全の例外

ガイドラインは、医療・安全の例外を狭く解釈すべきだとしています。治療目的の使用は、CEマークの付いた医療機器の使用を指すとしています。職場での一般的なストレスの監視や、燃え尽き(バーンアウト)・うつの検出は、例外に当たらないとしています。安全上の理由は命と健康を守るためのものに限られ、盗難や不正から財産を守る目的は含まれないとしています(段落256〜258)。危険な機械や化学物質を扱う場面で、ストレスや集中力の低下が具体的な危険になる場合は、例外になる場合があるとしています。ただし、そのデータを業績評価など他の目的に使ってはならないとしています(段落263)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
コールセンターが、ウェブカメラや音声認識で従業員の怒りなどの感情を追跡する。なお、ガイドラインは、本人の研修目的だけに使い、結果を人事担当と共有せず、評価や昇進などに影響しない場合は許容されるとする(段落254)

欧州委員会

当たりうる例

例
採用選考中や試用期間中に感情認識AIを使う(段落254)

欧州委員会

当たりうる例

例
ハイブリッドワークのビデオ会議の声と映像から、チームの感情を推定する(段落254)

欧州委員会

当たりうる例

例
教育機関が、生徒の関心や注意を感情認識AIで推定する。入学試験で使う(段落255)

欧州委員会

当たりうる例

例
職場や教育機関で、燃え尽きやうつを検出するAI(例外に当たらないとされる。段落257)

欧州委員会

当たらない例

例
コールセンターが顧客の怒りや苛立ちを推定する((f) の対象外。ほかの規制はかかる。段落254)

欧州委員会

当たらない例

例
書かれた文章から感情を推定する(生体データに基づかない。段落251)

欧州委員会

当たらない例

例
パイロットや運転手の疲労を検知して休憩を促す(疲労は感情ではない。前文18、段落249)

AI法 前文18欧州委員会

当たらない例

例
ニュース番組の司会者がカメラに向かって笑った回数を数えるだけ(感情を推定しない。段落249)

欧州委員会

当たらない例

例
オンライン試験で視線の動きだけを追う。ただし、緊張などの感情も推定すれば当たる場合がある(段落255)

欧州委員会

当たらない例

例
教育機関の外で個人が使う語学学習アプリ。ただし、教育機関が生徒に使用を求めれば当たる場合がある(段落255)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

禁止に当たらない感情認識システムは、附属書III 1(c) の高リスクAIです。導入者は、対象者にシステムが動いていることを知らせる義務があります(第50条3項)。また、EUや加盟国は、雇用者のAI利用について労働者により有利な法令を置けます(第2条11項)。

出典: AI法 第5条AI法 第3条欧州委員会AI法 前文18AI法 附属書IIIAI法 第50条AI法 第2条

8. (g) 生体分類による機微な属性の推定

何が禁止か

生体データで個人を一人ずつ分類して、人種・政治的意見・労働組合への加入・宗教や思想信条・性生活や性的指向を推定・推論する生体分類システムは禁止です。禁止されるのは、市場への提供・この目的での使用開始・使用です。適法に取得した生体データセット(画像など)のラベル付けやフィルタリングは、法執行の分野を含めて対象外です(第5条1項(g)、前文30)。

「生体分類システム」の範囲

「生体分類システム」の定義からは、別の商用サービスに付随し、客観的な技術上の理由で厳格に必要なものが外れています(第3条40号)。前文16は、ネット通販の試着プレビューや、SNSの写真加工フィルターをその例に挙げています。ガイドラインは、服装やアクセサリー(スカーフや十字架など)、SNSでの活動による分類は生体分類に当たらないとしています(段落277)。

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
SNSに上げた写真の生体データから政治的な傾向を推定し、政治的なメッセージを送る(段落280)

欧州委員会

当たりうる例

例
SNSで共有された写真の生体データから性的指向を推定し、それに基づいて広告を出す(段落280)

欧州委員会

当たりうる例

例
声から人種を推定できるとする分類システム、入れ墨や顔から宗教を推定できるとする分類システム(段落283)

欧州委員会

当たらない例

例
ネット通販で商品を自分の顔・体に重ねて試すための分類フィルターや、SNSで写真を加工するフィルター(付随的な機能。前文16、段落280)

AI法 前文16欧州委員会

当たらない例

例
肌や目の色で分類するだけで、機微な属性を推定しないもの(段落283)。がんの診断などのための、肌や目の色による患者画像の分類(段落285)

欧州委員会

当たらない例

例
学習データの偏りを防ぐための、適法に取得した生体データセットのラベル付け・フィルタリング(段落285)

欧州委員会

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

禁止に当たらない、機微な属性の推定による生体分類のAIは、附属書III 1(b) の高リスクAIです。導入者には対象者に知らせる義務があります(第50条3項)。

出典: AI法 第5条AI法 前文30AI法 第3条AI法 前文16欧州委員会AI法 附属書IIIAI法 第50条

9. (h) 公共の場所でのリアルタイム遠隔生体識別(法執行)

何が禁止か

法執行のために、公共の場所で「リアルタイム」の遠隔生体識別システムを「使う」ことが禁止です。(h) が禁止するのは使用だけです。こうしたシステムを市場に出すことや、ほかの遠隔生体識別は禁止されず、附属書III 1(a) の高リスクAIの規制がかかります(ガイドライン段落291)。事後の(リアルタイムでない)遠隔生体識別を法執行で使うことも、禁止ではありません。ただし、追加の安全策がかかります(第26条10項、段落292)。

言葉の意味

  • 遠隔生体識別: 本人が能動的に関わらずに、ふつうは離れた場所から、生体データをデータベースと照合して人を識別する(第3条41号)
  • リアルタイム: 生体データの取得・照合・識別が大きな遅れなく行われる。回避を防ぐため、短い遅れも含む(第3条42号)
  • 公共の場所: 不特定多数の人が入れる物理的な場所。所有者が公か私かを問わない(第3条44号)。前文19は、店舗・飲食店・駅・競技場なども含む一方、従業員だけが入る会社や工場の敷地、オンライン空間は含まないとしています

例外の3つの目的(厳格に必要な場合だけ)

  • 誘拐・人身取引・性的搾取の特定の被害者の捜索と、行方不明者の捜索
  • 人の生命・身体の安全への具体的・重大・差し迫った脅威、またはテロ攻撃の現実の差し迫った(予見できる)脅威の防止
  • 附属書II の犯罪で、その加盟国で上限4年以上の拘禁刑等が科されるものの容疑者の所在の特定・識別(捜査・訴追・刑の執行のため)
  1. 1

    国内法第5条5項

    加盟国が国内法で使用を認めた場合だけ使える。認めるかどうか、どの目的に認めるかは加盟国が決める

  2. 2

    事前の準備第5条2項・第27条・第49条

    法執行機関が基本的権利影響評価を終え、システムをEUデータベースに登録する(緊急時は登録を後回しにできる)

  3. 3

    事前の許可第5条3項

    司法当局か独立した行政機関の許可を、理由を付けて求める。正当な理由のある緊急時は、許可の前に使い始めてよい。ただし遅くとも24時間以内に請求し、拒否されたら直ちに止めてデータと結果を消す

  4. 4

    使用第5条2項・3項

    特定の対象者の身元確認だけに使い、時間・場所・人の範囲を厳格に必要な範囲に限る。システムの出力だけで、人に不利な法的効果のある決定をしない

  5. 5

    通知・報告第5条4項・6項・7項

    使うたびに市場監視当局とデータ保護当局に通知する。各国当局は欧州委員会に年次報告を出し、委員会は年次報告を公表する

本人確認の顔認証との違い

本人であることを確かめるだけの生体認証(1対1の照合。スマートフォンのロック解除や入館の顔認証など)は、遠隔生体識別に当たりません(第3条36号、前文15・17)。また (h) は法執行の目的に限った禁止で、法執行以外の目的での遠隔生体識別は (h) の対象ではありません。ただし、その場合も附属書III 1(a) の高リスクAIです。生体データの処理は GDPR で原則として禁止され、例外は限られています(GDPR 第9条1項、前文38・39)。

出典: AI法 第5条AI法 附属書IIIAI法 第26条欧州委員会AI法 第3条AI法 前文19AI法 第27条AI法 第49条AI法 前文15AI法 前文17AI法 前文38AI法 前文39

10. (ba)(bb) 改正で追加された禁止(2026年12月2日から)

何が禁止か

改正規則 (EU) 2026/1744 で、次の2つが第5条1項に加わりました。(ba) 特定できる実在の人の性的な部位や、性的行為をしている姿の、本物らしい画像・映像・音声などを、その人の自由で具体的な、情報を得たうえでの明確な同意なく生成・加工するAI。(bb) 指令 2011/93/EU 第2条(c)・(e) の意味の素材・実演(児童性的虐待素材)を生成・加工するAI(国内法の「without right」の抗弁が適用される場合を除く)。どちらも、市場への提供・使用開始・使用が対象で、2026年12月2日から適用されます。

提供者に禁止される2つの場合

提供者が市場に出す・使用を開始することが禁止されるのは、次のどちらかの場合だけです。(i) 生成・加工がそのAIの意図された目的である。(ii) 設計・学習・構造・能力・利用者向け機能から、大きな技術的改変なしに、合理的に予見でき再現できる結果として生成・加工が起きる。しかも、合理的で十分な技術的安全策などがない。ここでの安全策は、合理的に予見できる誤用を考えて生成・加工を確実に防ぎ、見つかった・報告された誤用を正すためのものを指す(第5条1a項(a))。

導入者(使う側)の場合

導入者(使う側)の使用が禁止されるのは、その素材を生成・加工する目的でAIを使う場合だけです(第5条1a項(b))。前文12によると、安全策のない製品を誤用する場合や、安全策を回避する場合もこれに含まれます。一方、適法な目的での使用や、偶然に生成されてしまった場合は含まないとしています。

前文12が挙げる安全策の例

  • データのクリーニング、拒否の学習(refusal training)
  • 安全なプロンプト設計と出力の制御、実行時のプロンプトのガードレール
  • コンテンツの分類・フィルタリング、利用の制限
  • 悪用の検知、通知と対応(notice and action)の仕組み

境界線: 当たりうる例・当たらない例

当たりうる例

例
特定できる実在の人の写真から、性的な部位を露出させた本物らしい画像を作る、いわゆる「ヌード化」アプリ(前文11・12)

改正規則2026/1744 前文11改正規則2026/1744 前文12

当たりうる例

例
性的な部位をすでに写した素材でも、露出を増やしたり、性的行為の性質を変えたりする加工(第5条1b項、前文12)

改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文12

当たらない例

例
特定できる実在の人を描かないもの、性的な部位を見せない部分的なヌード、実在の人を本物らしく描かない芸術的なヌード、漫画的・物理的にありえない描写(前文12)

改正規則2026/1744 前文12

当たらない例

例
性的な部位を露出させない、または描かれる本人の明確な同意がある、試着アプリや医療用途(解剖のシミュレーション、マンモグラフィ)(前文12)

改正規則2026/1744 前文12

当たらない例

例
既存の素材の背景を変える、見出しを入れる、明るさやコントラストを調整するだけの加工(第5条1b項、前文12)

改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文12

当たらない例

例
(bb) で、国内法の「without right」の抗弁が適用される場合。刑事手続きなどのための当局による適法な生成や、禁止への適合を確かめるレッドチーミング・評価での適法な使用など(前文13)

改正規則2026/1744 前文13

欧州委員会ガイドライン(段落番号)または前文の例を要約したもの。どれも、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。

同じ行為は、刑法など他の法律にも違反する場合があるとされています。刑事罰と重なる場合、加盟国は同じ行為で二重に罰しない原則(ne bis in idem)を守る必要があります(改正規則の前文15)。欧州委員会の禁止ガイドラインは改正前のものなので、(ba)(bb) の解釈は改正規則の前文に頼る部分が大きくなります。

出典: 改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文12改正規則2026/1744 前文11改正規則2026/1744 前文13改正規則2026/1744 前文15欧州委員会

11. 日本企業が気をつけたい場面

対象になるとき

EUの外の会社でも、次の立場なら AI法がかかります。EUでAIシステムを市場に出す・使用を開始する提供者と、AIの出力がEUで使われる提供者・導入者です(第2条1項(a)・(c))。EU内の現地法人などがAIを導入者として使う場合も対象です(第2条1項(b))。第5条の禁止も同じです。

広告・マーケティングのパーソナライズ

関係しうる号
(a)(b)
条文・ガイドラインで言えること
好みに基づくパーソナライズは、それだけで操作には当たらないとされる。隠れた感情推定で買いやすい瞬間を狙う、弱い立場の人を狙って重大な金銭的な害を生む、などは当たる場合がある(ガイドライン段落110・129・133)

AI法 前文29欧州委員会

従業員の感情分析(コールセンター・会議・ウェルビーイング)

関係しうる号
(f)
条文・ガイドラインで言えること
従業員の感情の追跡、会議の感情推定、燃え尽きの検出は禁止の例とされる。顧客の感情の推定は (f) の対象外(ガイドライン段落254・257)

AI法 第5条欧州委員会

採用面接・適性検査のツール

関係しうる号
(f)
条文・ガイドラインで言えること
採用選考中の感情認識は禁止の例とされる(段落254)。感情を推定しない評価機能は、附属書III 4(a)(採用・選考)の高リスクAIに当たる場合がある

AI法 附属書III欧州委員会

eラーニング・オンライン試験の監視

関係しうる号
(f)
条文・ガイドラインで言えること
視線の追跡だけなら対象外。緊張・関心などの感情を推定すれば当たる場合がある。教育機関が生徒に使わせる場合が対象(段落255)

欧州委員会

入館・決済・端末ロックの顔認証

関係しうる号
(h) とは別
条文・ガイドラインで言えること
本人確認だけの1対1の生体認証は遠隔生体識別に当たらない。(h) は法執行の目的に限る(第3条36号、前文17)。生体データの処理は GDPR の規律を受ける

AI法 第3条AI法 前文17AI法 前文39

顔画像の収集・顔認識用データベースの構築

関係しうる号
(e)
条文・ガイドラインで言えること
ネットやCCTVからの無差別収集による顔認識データベースは禁止。人を識別しない学習用データセットや、架空の顔の生成モデルは対象外とされる(段落234〜235)

AI法 第5条欧州委員会

画像・動画・音声の生成AIサービス

関係しうる号
(ba)(bb)
条文・ガイドラインで言えること
2026年12月2日から。意図された目的でなくても、予見できて再現できる結果として生成でき、十分な安全策がなければ、提供が禁止される場合がある(第5条1a項)

改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文12

与信・保険のスコアリング

関係しうる号
(c)
条文・ガイドラインで言えること
関係するデータで法令に沿って行う信用評価は対象外とされる。無関係なデータで保険料を上げるなどは当たる場合がある(段落170・177)。禁止に当たらなくても、附属書III 5(b)(c) の高リスクAIになる場合がある

AI法 附属書III欧州委員会

汎用AI(チャットボットなど)を組み込んだサービス

関係しうる号
全般
条文・ガイドラインで言えること
提供者は利用規約で禁止された使い方を除外し、使用説明書で導入者に情報を与え、誤用を知ったら対応することが期待される。導入者は安全策を回避しない(ガイドライン段落40〜41)

欧州委員会

条文と欧州委員会ガイドラインで言える範囲の整理です。個別の判断は事実関係によります。

架空の例B社のオンライン面接ツール

  • 日本のHRテック企業「B社」(架空)が、EUの企業向けにオンライン面接ツールをSaaSで提供している。
  • ツールには、候補者の表情と声から「熱意」「緊張」を推定してスコアにする機能がある。ガイドラインは、採用選考中の感情認識AIの使用を禁止に当たる例として挙げている(段落254)。そのため、この機能は (f) に当たる可能性がある。
  • B社は、EU向けの提供からこの機能を外し、利用規約で職場・採用での感情推定を禁じる、という対応が考えられる。
  • 残る機能(例: 回答内容の要約と評価)は、附属書III 4(a)(採用・選考)の高リスクAIに当たる可能性がある。そのため、高リスクAIの義務を別に確認する。

具体例の当てはめの根拠: 第5条1項(f)、ガイドライン段落41・254、附属書III 4(a)。

出典: AI法 第2条AI法 前文29欧州委員会AI法 第5条AI法 附属書IIIAI法 第3条AI法 前文17AI法 前文39改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文12

12. 罰則と執行

第5条の禁止の違反(事業者)

罰金の上限
3,500万ユーロか、前の事業年度の全世界年間売上高の7%の高い方
根拠
第99条3項

AI法 第99条

中小企業(スタートアップを含む)

罰金の上限
上の金額と割合の低い方
根拠
第99条6項

AI法 第99条

EUの機関・組織

罰金の上限
150万ユーロ
根拠
第100条2項

AI法 第100条

加盟国の公的機関

罰金の上限
罰金を科せるかどうか・どこまでかは各加盟国が定める
根拠
第99条8項

AI法 第99条

罰金の額は、違反の性質・重さ・期間、企業の規模、協力の度合いなどを考えて決めます(第99条7項)。罰則の章(第XII章。第101条を除く)は2025年8月2日から適用されています(第113条(b))。改正で、中堅企業(SMC)にも罰金の「低い方」ルールが加わりました。対象は第99条4項・5項の罰金で、第5条違反(3項)は含まれていません(第99条6a項)。

禁止の執行は、各加盟国が指定する市場監視当局が行います。EUの機関については、欧州データ保護監察機関(EDPS)が市場監視当局になります(第70条・第74条9項、ガイドライン段落53)。違反だと考える人は、誰でも市場監視当局に苦情を申し立てられます(第85条)。複数の国にまたがる場合は、委員会が判断するEUのセーフガード手続きがあります(第81条、ガイドライン段落54)。改正後は、一部のAIシステムを欧州委員会の AI Office が監督します(詳しくは本体の10章)。

出典: AI法 第99条AI法 第100条AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条AI法 第70条AI法 第74条AI法 第85条AI法 第81条欧州委員会

13. よくある質問

禁止はいつから守る必要がありますか?

(a)〜(h) は2025年2月2日から適用されています。改正で加わった (ba)(bb) は2026年12月2日から適用されます。罰則の章は2025年8月2日から適用されています(第113条)。

AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条

感情を分析するAIは全部禁止ですか?

いいえ。(f) の禁止は、職場と教育機関での、生体データに基づく感情の推定に限られます。医療・安全上の理由の例外もあります。それ以外の感情認識システムは禁止ではありませんが、附属書III 1(c) の高リスクAIです。導入者は対象者に知らせる義務があります(第50条3項)。ただし、(a)(b) の操作・悪用の禁止に当たる場合はあります(ガイドライン段落266)。

AI法 第5条AI法 附属書IIIAI法 第50条欧州委員会

他社の汎用AI(大規模言語モデルのAPIなど)を組み込んで使う場合、誰が責任を負いますか?

ガイドラインは、禁止は特定用途のAIにも汎用AIシステムにもかかるとしています。各事業者は、バリューチェーン(AIの開発から利用までの流れ)での役割と管理の度合いに応じて対策をとるべきだとしています。導入者は、禁止された使い方をせず、提供者の安全策を回避しないことが期待されています。提供者は、利用規約で禁止された使い方を除外し、合理的に予見できる誤用への安全策を組み込むことが期待されています(段落39〜41)。

欧州委員会

欧州委員会のガイドラインに沿っていれば安全ですか?

ガイドラインは委員会の解釈を示すもので、法的拘束力はありません。権威ある解釈は、欧州連合司法裁判所(CJEU)が行います。また、AI法の禁止に当たらなくても、GDPR・差別禁止法・消費者法など他のEU法で違法になる場合があります(ガイドライン段落43、第5条8項)。

欧州委員会AI法 第5条

開発中・研究中のAIにも禁止はかかりますか?

市場に出す・使用を開始する前の研究・試験・開発には AI法は適用されません。ただし実環境での試験はこの除外に入りません(第2条8項)。科学的な研究開発だけを目的に開発・使用開始されたAIも対象外です(第2条6項)。

AI法 第2条

出典: AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条AI法 第5条AI法 附属書IIIAI法 第50条欧州委員会AI法 第2条

14. 出典一覧・更新履歴

更新履歴

  • 初版。条文(規則 (EU) 2024/1689 と改正規則 (EU) 2026/1744)と欧州委員会の禁止ガイドラインで確認した範囲で作成。自分で作った具体例は1つ(架空と明示)

このページは一般的な情報の整理で、法的助言ではありません。「当たりうる例」「当たらない例」は、欧州委員会のガイドラインかAI法の前文に載っている例の要約です。どの例も、条文のほかの条件がそろうかどうかで結論が変わる場合があります。ガイドラインに法的拘束力はなく、最終的な解釈は欧州連合司法裁判所(CJEU)が行います。自分で作った例には「架空の例」と付けています。実際の判断は一次資料と専門家の確認を経てください。