◆ AI Reg Atlas About

EU AI法 徹底解説

EU AI法(規則 (EU) 2024/1689)と2026年の改正(規則 (EU) 2026/1744)を、日本企業向けに整理したページです。条文と欧州委員会の公式ページで確認した範囲で書いています。

最終確認 2026-10-11(条文・欧州委員会の公式ページで確認)

このページは一般的な情報の整理で、法的助言ではありません。条文の当てはめは事業ごとに変わるため、最終判断は一次資料と専門家の確認を経てください。

目次
  1. 0. ひとことで
  2. 1. 全体像: 何を・誰を・いつから
  3. 2. 日程表
  4. 3. 2026年の改正(Digital Omnibus)で変わったこと
  5. 4. 4つのリスク区分
  6. 5. 禁止されるAI(第5条)
  7. 6. 高リスクAI
  8. 7. 業界・職種別: これはハイリスク?
  9. 8. 汎用AI(GPAI)モデル
  10. 9. 透明性義務(第50条)
  11. 10. 罰則と執行
  12. 11. 日本企業が対象になるケースと「今やっておくこと」
  13. 12. 他国との違い
  14. 13. よくある質問
  15. 14. 出典一覧・更新履歴

0. ひとことで

  • EU AI法(規則 (EU) 2024/1689)は、AIを使い方の危険度で4つに分け、危険度が高いほど重い義務を課すEUの法律です。
  • EUの外の会社でも、EUでAIを提供する場合や、AIの出力がEUで使われる場合は対象になりえます(第2条1項)。
  • 2026年の改正(規則 (EU) 2026/1744、通称 Digital Omnibus)は、2026年7月27日に発効しました。この改正で、高リスクAIの義務は2027年12月2日(用途型)と2028年8月2日(製品組み込み型)へ延びました。一方、2026年12月2日から、実在の人の性的な画像などを作るAIの禁止が加わります。

1. 全体像: 何を・誰を・いつから

何を規制するか

規制の対象は「AIシステム」と「汎用AIモデル」です。AIシステムは機械ベースのシステムで、受け取った入力から出力をどう作るかを推論します。出力には予測・コンテンツ・推奨・判断などがあります(第3条1号)。汎用AIモデルは、幅広い異なる作業をこなせて、さまざまなシステムに組み込めるAIモデルです(第3条63号)。

図1

あなたの会社は、どの立場?

自社が何をしているかから、読む章を選べます。立場はひとつとは限りません。

会社の行為から、提供者、汎用AIモデルの提供者、導入者、輸入者、販売者に対応する解説の章を選ぶ案内。複数の立場に当たる場合があります。EU域内の代理人に当たるかどうかは、立場の表の説明へ。

あなたの会社は何をする?

複数の立場に当たることがあります。たとえば、自社の名前で出す提供者であり、自社でも使う導入者でもある、というケースです。

汎用AIモデルの定義は第3条63号。立場(提供者)の根拠は第3条3号です。輸入者はEU域内にいる者に限られます。

出典: 条文 第3条(定義)

誰が対象か(立場)

提供者(provider)

どんな人か(条文の定義の要約)
AIシステムや汎用AIモデルを開発し(または開発させ)、自社の名前・商標で市場に出すか使用を開始する者。有償・無償を問わない(第3条3号)
日本企業の例
EU向けにAI搭載のSaaSを売るソフト会社

AI法 第3条

導入者(deployer)

どんな人か(条文の定義の要約)
自らの権限のもとでAIシステムを使う者。個人が仕事以外で私的に使う場合は除く(第3条4号)
日本企業の例
EU子会社が採用選考にAIを使う

AI法 第3条

輸入者(importer)

どんな人か(条文の定義の要約)
EU域内にいて、域外の者の名前・商標が付いたAIシステムをEU市場に出す者(第3条6号)
日本企業の例
日本製AI製品を仕入れて売るEUの会社(日本企業の取引先側)

AI法 第3条

販売者(distributor)

どんな人か(条文の定義の要約)
提供者・輸入者以外で、サプライチェーンの中でAIシステムをEU市場に流通させる者(第3条7号)
日本企業の例
EUの代理店・販売店

AI法 第3条

製品製造者

どんな人か(条文の定義の要約)
AIシステムを自社製品と一緒に、自社の名前・商標で市場に出す製造者(第2条1項(e))
日本企業の例
AIを組み込んだ機械・医療機器をEUへ輸出するメーカー

AI法 第2条

EU域内代理人

どんな人か(条文の定義の要約)
EU域内にいて、域外の提供者から書面で委任を受け、規則上の義務・手続きを代わりに行う者(第3条5号)。高リスクAIと汎用AIモデルでは、域外の提供者が選任しなければならない(第22条、第54条)
日本企業の例
日本の提供者がEU域内に置く代理人

AI法 第3条AI法 第22条AI法 第54条

EUの外の会社が対象になる条件(第2条1項)

  • (a) EUでAIシステムを市場に出すか使用開始する提供者と、EUで汎用AIモデルを市場に出す提供者(EUの外にいる提供者も含む)
  • (b) EU域内に拠点がある、またはEU域内にいる導入者
  • (c) EUの外にいる提供者・導入者でも、AIシステムの出力がEUで使われる場合
  • (d) AIシステムの輸入者・販売者、(e) 製品製造者、(f) EU域外の提供者の代理人、(g) EU域内にいる影響を受ける人

主な適用除外

  • 軍事・防衛・国家安全保障だけを目的とするAI(第2条3項)
  • 科学研究・開発だけのために作られ、使われるAIシステム・モデル(第2条6項)
  • 市場に出す・使用開始する前の研究・試験・開発(ただし実環境でのテストは除外されない。第2条8項)
  • 個人が仕事ではなく私的に使う場合の、導入者としての義務(第2条10項)
  • 無償のオープンソースライセンスで公開したAIシステム。ただし、高リスクAIと、第5条(禁止)・第50条(透明性)に当たるものは対象のまま(第2条12項)

いつから

EU AI法の適用は、段階的に始まっています。禁止とAIリテラシーは2025年2月から、汎用AIモデルの義務は2025年8月から適用されています。透明性義務などは2026年8月からです。高リスクAIの義務は、改正後の日程で2027年12月・2028年8月から始まります。詳しい日付は次の日程表にあります。

出典: AI法 第3条AI法 第2条AI法 第22条AI法 第54条AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条欧州委員会

2. 日程表

図4

いつから何が適用される?

日付順に並べています。改正で延期された高リスク義務は、改正前と改正後を並べて見られます。

2024年から2030年までの適用日を日付順に並べた時間軸。改正により、附属書IIIの高リスク義務は2026-08-02から2027-12-02へ、附属書Iの高リスク義務は2027-08-02から2028-08-02へ延期されました。今日の日付の位置も示します。

  • 改正規則
  • 追加された禁止
  • 延期(改正後の期限)
  • 改正前の期限
  1. 直近

    • AI法 発効

  2. 直近

    • 禁止・AIリテラシー 適用開始

  3. 直近

    • 汎用AI・罰則等 適用開始

      汎用AIモデル提供者への罰金(第101条)は2026-08-02から

  4. 直近

    • 改正規則 発効 改正

  5. 直近

    • 一般適用開始

      第50条の透明性義務などが適用される日。全条文が始まる日ではありません

      改正前: 附属書III系の高リスク義務はこの日の予定でした(2026-08-02)

  6. 今日:
  7. 直近

    • 追加された禁止の適用開始 追加禁止

    • 既存の生成AI: 第50条2項への対応期限

      2026-08-02より前に市場に出した生成AIの提供者が対象

  8. 直近

    • 既存の汎用AIモデル: 対応期限

      2025-08-02より前に市場に出したモデルが対象

      改正前: 附属書I系の高リスク義務はこの日の予定でした(2027-08-02)

  9. 直近

    • 附属書III系: 高リスク義務 延期

      改正前

      改正後(延期)

  10. 直近

    • 附属書I系: 高リスク義務 延期

      改正前

      改正後(延期)

  11. 直近

    • 公的機関向けの既存高リスク: 対応期限

日付順の並びで、間隔は期間の長さを表しません。「発効」は法律が効力を持つ日、「適用開始」は義務がかかり始める日で、別の日です。

2026-12-02の第50条2項の猶予は、2026-08-02より前に市場に出した生成AIだけが対象で、新しいシステムの猶予ではありません。既存の汎用AIの期限は、2025-08-02より前に市場に出したモデルだけが対象です。

出典: 第113条(段階適用)第111条(経過措置)改正規則 (EU) 2026/1744

これからの期限

  • あと46日生成AIの出力表示義務(第50条2項)の猶予が終わるやること →移行期間の終了
  • あと46日EU: 性的ディープフェイク等の生成AIが禁止に追加やること →施行
  • あと289日EU: 2025-08-02前の汎用AIモデルの義務対応の期限やること →移行期間の終了
  • あと289日各加盟国のAI規制サンドボックスの稼働期限(改正後の第57条1項。改正前は2026-08-02)
  • あと411日EU AI法: Annex III系ハイリスクAIの義務が適用やること →義務の適用
  • あと655日EU AI法: 製品組み込み型(Annex I系)の義務が適用やること →義務の適用
  • あと1385日公的機関が使う既存の高リスクAIを規則に適合させる期限(第111条2項)
  • あと1536日附属書Xの大規模ITシステムの構成要素で、2027-08-02より前に市場に出たAIの適合期限(第111条1項)

これまでの節目

  1. EU AI法(規則 (EU) 2024/1689)が官報に掲載
  2. EU AI法が発効
  3. 第1章・第2章(総則・AIリテラシー・禁止されるAI)の適用開始
  4. 汎用AIの行動規範(Code of Practice)公表
  5. 汎用AIモデルの義務・ガバナンス・罰則の章などの適用開始(汎用AIへの罰金を定める第101条を除く)
  6. 欧州委員会が改正(Digital Omnibus)の提案を採択
  7. 改正(Digital Omnibus)について政治合意
  8. 欧州委員会が高リスク分類ガイドラインの案を公表(意見募集)
  9. 改正規則 (EU) 2026/1744 に欧州議会・理事会が署名
  10. 改正規則 (EU) 2026/1744 が官報に掲載
  11. 改正規則が発効。第102〜110条(他の法令の改正部分)もこの日から適用
  12. 一般適用日。第50条の透明性義務などが適用され、汎用AIモデル提供者への罰金(第101条)も可能に

「これからの期限」は、Atlas の期限一覧(人が出典を開いて確認したもの)から取っています。残り日数は、ページを作った日(日本時間)から数えています。

出典: AI法(EUR-Lex)欧州委員会改正規則2026/1744(EUR-Lex)AI法 第113条改正規則2026/1744 第4条改正規則2026/1744 第1条AI法 第111条

3. 2026年の改正(Digital Omnibus)で変わったこと

欧州委員会は2025年11月19日に、簡素化パッケージとしてこの改正を提案しました。2026年5月7日に政治合意に達し、改正規則 (EU) 2026/1744 として2026年7月24日に官報に載りました。発効は7月27日です。理由として、高リスクAI向けの標準(規格)づくりや各国の体制整備が遅れ、負担が想定より重くなったことが挙げられています(改正規則の前文2)。

旧日程・旧ルールと新しいものの対照表

附属書III の高リスクAI(用途型)の義務

改正前
2026-08-02
改正後
2027-12-02
根拠
第113条(c)(i)

改正規則2026/1744 第1条AI法 第113条

附属書I の高リスクAI(製品組み込み型)の義務

改正前
2027-08-02
改正後
2028-08-02
根拠
第113条(c)(ii)

改正規則2026/1744 第1条AI法 第113条

新しい禁止(性的ディープフェイク・児童性的虐待素材を作るAI)

改正前
なし
改正後
2026-12-02 から禁止
根拠
第5条1項(ba)(bb)、第113条(a)

改正規則2026/1744 第1条

2026-08-02 より前に市場に出した生成AIの出力表示(第50条2項)

改正前
2026-08-02 から(一般適用日)
改正後
2026-12-02 までに対応すればよい
根拠
第111条4項(新設)

改正規則2026/1744 第1条

既存の高リスクAIの扱い

改正前
2026-08-02 より前に市場に出たものは、その後に設計の大きな変更がなければ対象外
改正後
基準日が「第III章の適用日」(附属書III系は 2027-12-02、附属書I系は 2028-08-02)に変更(公的機関向けは2030-08-02までに対応)
根拠
第111条2項

改正規則2026/1744 第1条AI法 第111条

機械(附属書I)

改正前
セクションA(機械指令 2006/42/EC)
改正後
セクションB(機械規則 (EU) 2023/1230)へ移動。AIの安全要件は機械規則側に委任法令で追加
根拠
附属書I、改正規則第3条

改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 第3条

AIリテラシー(第4条)

改正前
スタッフの十分なAIリテラシーを確保する措置
改正後
AIリテラシーの向上を支援する措置(個人に特定の水準を保証することまでは求めない)
根拠
第4条

改正規則2026/1744 第1条AI法 第4条

中堅企業(SMC)への配慮

改正前
罰金の「低い方」ルールは中小企業(SME)のみ
改正後
SMC にも、第99条4項・5項の罰金で「低い方」を適用
根拠
第99条6a項(新設)

改正規則2026/1744 第1条

AI Office(欧州委員会のAI担当部局)の監督

改正前
汎用AIモデルと、同じ提供者のモデルを基盤とするAIシステムの監視・監督(専属ではない)
改正後
汎用AIモデルと、同じ提供者(グループ)のモデルを基盤とするAIシステム、超大規模オンラインプラットフォーム等に組み込まれたAIシステムを専属で監督(例外あり)
根拠
第75条1項、第75a〜75d条

改正規則2026/1744 第1条AI法 第75条

加盟国のAI規制サンドボックス

改正前
2026-08-02 までに稼働
改正後
2027-08-02 までに稼働
根拠
第57条1項

改正規則2026/1744 第1条AI法 第57条

バイアス検出のための特別な個人データの処理

改正前
高リスクAIの提供者のみ(第10条5項)
改正後
新設の第4a条に移し、導入者や他のAIにも条件つきで拡大
根拠
第4a条

改正規則2026/1744 第1条

改正で加わった禁止は2つです(第5条1項(ba)(bb))。(ba) は、特定できる実在の人について、性的な部位や性的行為の本物らしい画像・映像・音声などを作る・加工するAIです。本人の自由で明確な同意がない場合が対象です。(bb) は、児童性的虐待に当たる素材を作る・加工するAIです。こうしたAIを市場に出すことが禁止されるのは、次のどちらかの場合に限られます。1つは、その生成が意図された用途である場合です。もう1つは、設計や機能からその生成が合理的に予見でき再現可能なのに、確実に防ぐ安全対策がない場合です。導入者(使う側)は、そうした素材を作る目的で使う場合に禁止されます(第5条1a項)。

第50条の透明性義務などは、予定どおり2026年8月2日(一般適用日)に始まりました。附属書III の高リスク義務も本来この日からでしたが、改正で延期されました。

出典: 欧州委員会改正規則2026/1744(EUR-Lex)改正規則2026/1744 第4条改正規則2026/1744 第1条AI法 第113条AI法 第111条改正規則2026/1744 第3条AI法 第4条AI法 第75条AI法 第57条

4. 4つのリスク区分

図3

AIの使い方は、4つの区分で考える

区分は「AIの種類」ではなく「使い方」で決まります。上から、義務の重い順です。

AI法の対応を、禁止、高リスク、透明性義務、最小リスクの4区分で示した一覧。各区分に代表例と主な対応、条文を添えています。区分は重なる場合があります。

  1. 禁止

    代表例

    • 一定の社会的スコアリング
    • 職場・教育機関での感情の推定(医療・安全上の理由を除く)

    主な対応・条文

    市場に出すことも使うことも禁止

    第5条

  2. 高リスク

    代表例

    • 採用候補者の評価
    • 第三者の適合性評価が必要な医療機器のAI

    主な対応・条文

    要件を満たし、適合性評価を受ける

    第6条、第9〜15条、第43条

  3. 透明性義務

    代表例

    • 人と直接やりとりするAI
    • ディープフェイクの画像・音声・映像

    主な対応・条文

    AIだと分かるように伝える・表示する

    第50条

  4. 最小リスク

    代表例

    • 上の3つに当たらないAI

    主な対応・条文

    この法律による追加のルールはない(AIリテラシーの措置、第4条を除く)

これは理解のための4区分です。高リスクと透明性義務は重なる場合があります。該当するかは、用途と条件で判断します。

帯の長さや並びは、件数や危険度の比率を表しません。最小リスクは「対応が要らない」という意味ではありません。汎用AIモデルの義務(第51条以下)は、この4区分とは別立てです。

出典: 第5条第6条第50条第4条欧州委員会の解説

区分は「AIの種類」ではなく「使い方」で決まります。同じ技術でも、使う場面で区分が変わります。どの区分でも、提供者・導入者にはAIリテラシーの措置がかかります(第4条)。汎用AIモデルの義務は、この4区分とは別に定められています(第5章、第51条以下)。

出典: AI法 第4条AI法 第6条AI法 第51条

5. 禁止されるAI(第5条)

(a)

禁止される内容(平易に)
意識できないサブリミナル手法や、意図的な操作・欺く手法で人の判断力を大きく損ない、重大な害を生む(生むおそれが高い)形で行動をゆがめる
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(b)

禁止される内容(平易に)
年齢・障害・社会的経済的な状況による弱みにつけ込み、重大な害を生む形で行動をゆがめる
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(ba)

禁止される内容(平易に)
本人の明確な同意なく、特定できる実在の人の性的な部位・性的行為の本物らしい画像・映像・音声などを作る・加工する(改正で追加)
適用開始
2026-12-02

改正規則2026/1744 第1条

(bb)

禁止される内容(平易に)
児童性的虐待に当たる素材を作る・加工する(国内法上の例外あり。改正で追加)
適用開始
2026-12-02

改正規則2026/1744 第1条

(c)

禁止される内容(平易に)
社会的なふるまいや性格などで人を一定期間評価・分類し(社会的スコアリング)、無関係な場面での不利な扱いや、不当・不釣り合いな不利な扱いにつなげる
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(d)

禁止される内容(平易に)
プロファイリングや性格特性だけに基づいて、人が罪を犯すリスクを評価・予測する(客観的事実に基づく人の評価を支えるものは除く)
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(e)

禁止される内容(平易に)
インターネットや防犯カメラの映像から顔画像を無差別に集めて顔認識データベースを作る・広げる
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(f)

禁止される内容(平易に)
職場や教育機関で人の感情を推定する(医療・安全上の理由は除く)
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(g)

禁止される内容(平易に)
生体データから人種・政治的意見・労働組合への加入・宗教や信条・性生活や性的指向を推定して分類する
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

(h)

禁止される内容(平易に)
法執行のために、公共の場所で「リアルタイム」の遠隔生体識別を使う(誘拐被害者の捜索、差し迫ったテロの防止など、厳しい条件つきの例外あり)
適用開始
2025-02-02

AI法 第5条

違反の罰金の上限は、3,500万ユーロか全世界年間売上高の7%の高い方です(第99条3項)。

  • 禁止されるAI 実務ガイド →各号の条件、欧州委員会ガイドラインの「当たりうる例・当たらない例」、(h) の例外の手続き、改正で加わった (ba)(bb) の範囲

出典: AI法 第5条改正規則2026/1744 第1条AI法 第99条

6. 高リスクAI

図2

これは高リスク? 4つの質問で確かめる

上から順に答えます。「はい」の結果はその質問の下に、「いいえ」は次の質問へ進みます。

禁止、対象製品、附属書IIIの用途、例外条件の順に高リスク該当性を確認し、第50条の透明性義務も確認する判定の流れ。附属書IIIの用途に当たっても、例外の条件をすべて確認できれば高リスクには当たりません。

  1. 1

    禁止されるAIの使い方に当たる?

    第5条

    はい →

    禁止

  2. 2

    附属書Iの製品(または製品の安全部品)で、第三者の適合性評価が必要?

    AI自体が対象製品の場合も含みます。

    第6条1項

    はい →

    高リスク

    第50条の義務が重なる場合あり

  3. 3

    附属書IIIに挙がった用途に当たる?

    第6条2項

    はい →

    例外になるか確認

    下の枠へ

    附属書IIIでも例外になる? 第6条3項・4項

    次の3つがすべて当てはまるときだけ、例外になります。

    条件A

    次のどれか1つに当たる

    (4つ全部は不要)

    1. 1.狭い手続き的な作業
    2. 2.人が終えた作業の結果を良くするだけ
    3. 3.過去の判断の傾向やずれを見つけるだけ
    4. 4.評価の準備作業

    条件B

    健康・安全・基本的権利への重大な危害のリスクがない

    判断の結果に実質的に影響しないことを含みます。

    条件C

    人のプロファイリングをしない

    行う場合は常に高リスクです。

    すべて確認できる →

    高リスクには当たらない

    提供者は判断を文書化し、EUデータベースに登録する。そのあと質問4へ。

    確認できない →

    高リスク

    第50条の義務が重なる場合あり

  4. 4

    透明性の義務に当たる?(AIと話していることの案内、AI生成の表示 など)

    第50条

    はい →

    透明性義務を確認

    いいえ →

    最小リスク

高リスクと透明性の義務は、重なる場合があります。最小リスクでも、AIリテラシーの措置(第4条)はかかります。

該当するかは用途と条件で決まります。この図は考え方の整理で、法的助言ではありません。

出典: 第5条第6条第50条

2つの系統

AIが高リスクになる道は2つあります。1つ目は、EUの製品安全法令(附属書I)の対象製品に関わる場合です。具体的には、AIがその製品の「安全部品」か製品そのものである場合です。さらに、その製品が第三者の適合性評価(要件を満たしているかの審査)を受ける必要があるときに限ります(第6条1項)。2つ目は、附属書III に挙がった用途に使う場合です(第6条2項)。

附属書I と附属書III

附属書I セクションA

対象になる法令・用途
玩具、レジャー用船舶、昇降機、防爆機器、無線機器、圧力機器、索道、個人用保護具、ガス機器、医療機器(MDR)、体外診断用医療機器(IVDR)。改正で機械指令は削除
AI法の何がかかるか
AI法の高リスク要件(第III章第2節)が直接かかる。適合性評価は各製品法令の手続きの中で行い、AI法の要件も審査対象になる(第43条3項)
適用日
2028-08-02

AI法 附属書I改正規則2026/1744 第1条

附属書I セクションB

対象になる法令・用途
民間航空保安、二輪・三輪車、農林業用車両、船舶用機器、鉄道、自動車の型式認証(2法令)、民間航空(無人機など)、機械規則(改正で追加)
AI法の何がかかるか
AI法から直接かかるのは第6条1項・第60a条・第102〜112条だけ(第57〜59条は要件が各法令に組み込まれた範囲で)。AI法の要件は、各法令の委任法令・実施法令を作るときに考慮される形で入る
適用日
各法令の委任法令等による(機械規則は2028-08-02までに適用)

AI法 附属書I改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 第3条AI法 第107条

附属書III(用途型)

対象になる法令・用途
1 生体(遠隔生体識別など)、2 重要インフラ、3 教育、4 雇用・労務管理、5 必要不可欠な民間・公共サービス(信用評価・生命/医療保険・公的給付・緊急通報)、6 法執行、7 移民・難民・国境管理、8 司法・民主的プロセス
AI法の何がかかるか
AI法の高リスク要件と、提供者・導入者の義務が直接かかる
適用日
2027-12-02

AI法 附属書III改正規則2026/1744 第1条

改正で「安全部品」の定義が絞られました。安全に関わらない補助・最適化・効率化・自動化・利便性・品質管理だけに使うAIは、安全部品に当たりません。ただし、故障すると健康・安全を危険にさらすAIは、安全部品に当たります(第3条14号、第6条1a項・1b項)。

第6条3項の例外(判断を補助するだけ等)

附属書III の用途でも、次の (a)〜(d) のいずれかに当たり、判断の結果に実質的な影響を与えないAIは、高リスクに当たりません。(a) 狭い手続き的な作業、(b) 人が終えた作業の結果を良くするだけ、(c) 過去の判断の傾向やずれを見つけるだけ、(d) 評価の準備作業、の4つです。ただし、人のプロファイリングを行うものは常に高リスクです。この例外を使う提供者は、判断を文書化し、EUデータベースに登録する必要があります(第6条3項・4項)。

提供者の主な義務(要点、第16条)

  • 高リスク要件(リスク管理・データ管理・技術文書・ログ・使用説明書・人による監督・正確性等)を満たし、品質管理システムを置く
  • 市場に出す前に適合性評価を行い、EU適合宣言を作り、CEマークを付ける。評価のしかたは、附属書III 2〜8 は自社の内部統制、附属書III 1(遠隔生体識別などの生体)は条件により第三者機関、附属書I セクションA は製品法令の手続きの中で行う
  • EUデータベースに登録し、市販後監視・重大インシデントの報告・是正措置を行い、書類を10年保管する
  • EUの外の提供者は、EU域内代理人を書面で選任する
  • 高リスクAIの書類と手続き 実務ガイド →技術文書は製品仕様書で足りるか(附属書IVの項目ごとの対応表)、リスク管理・データ・ログ・使用説明書・人による監督・品質管理・適合性評価・登録・市販後監視を、架空の具体例つきで

導入者(使う側)の主な義務(第26条)

  • 使用説明書に従って使い、能力・訓練・権限のある人に監督を任せる
  • 入力データを管理する場合は、目的に合った代表的なデータにする
  • 動作を監視してリスクや重大インシデントを提供者・当局に知らせ、ログを少なくとも6か月保存する
  • 職場で使う前に従業員代表と従業員に知らせる。附属書III のAIで人に関する判断をする(補助する)ときは本人に知らせる

基本的権利影響評価(FRIA、第27条)

一部の導入者は、使い始める前に基本的権利影響評価(FRIA。AIが人の基本的権利に与える影響の評価)を行い、結果を市場監視当局に届け出る必要があります。対象は、公法上の機関、公共サービスを提供する民間の導入者、附属書III 5(b)(信用評価)・5(c)(生命・医療保険)の導入者です。附属書III 2(重要インフラ)は対象外です。GDPR のDPIA(データ保護影響評価)で済んでいる部分は、相互参照などで対応できます(第27条)。

使う側が提供者になる場合

導入者・輸入者・販売者でも、次のいずれかに当たると「提供者」とみなされ、提供者の義務を負います。当たるのは、高リスクAIに自社の名前・商標を付ける場合と、高リスクAIに大幅な変更を加える場合です。高リスクでなかったAI(汎用AIシステムを含む)の用途を変えて高リスクにする場合も当たります(第25条1項)。

欧州委員会は高リスク分類のガイドライン案を2026-05-19に公表し、意見を募集しました。最終版は、このページの確認日の時点で公表されていません。案に載った例は、今後更新される場合があるとされています。

出典: AI法 第6条AI法 附属書I改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 第3条AI法 第107条AI法 附属書IIIAI法 前文53AI法 第16条AI法 第43条AI法 第22条AI法 第26条AI法 第27条AI法 第25条欧州委員会

7. 業界・職種別: これはハイリスク?

人事・採用

高リスクになりうる例
求人広告のターゲティング配信、応募書類の分析・ふるい分け、候補者の評価。昇進・解雇など労働条件に関わる判断、個人の行動や性格に基づく業務の割り当て、仕事ぶり・行動の監視と評価
ならない例・別のルール
作成済みの文書の言い回しを整えるだけ等、第6条3項の条件に当たるもの(プロファイリングを行うなら常に高リスク)。職場での感情推定は高リスクではなく「禁止」(医療・安全目的を除く)
根拠
附属書III 4(a)(b)、第6条3項、前文53、第5条1項(f)、第26条7項

AI法 附属書IIIAI法 第6条AI法 前文53AI法 第5条AI法 第26条

自動車

高リスクになりうる例
車両の型式認証法令の対象で、安全機能を担うAI(安全部品)は、第6条1項の高リスクに当たる場合がある。対象の法令は附属書I セクションBの、自動車の規則 (EU) 2018/858・(EU) 2019/2144、二輪・三輪の規則 (EU) No 168/2013、農林業用車両の規則 (EU) No 167/2013。ただし、AI法から直接かかるのは第6条1項・第60a条・第102〜112条などに限られる。提供者の義務(第16条)や適合性評価(第43条)は、AI法から直接はかからない。AI法の要件は、欧州委員会が型式認証法令の委任法令・実施法令を定めるときに、考慮する形で入る
ならない例・別のルール
利用者の補助・性能最適化・利便性だけの、安全に関わらないAIは安全部品に当たらない(第6条1a項)。そうした機能がチャットのように人と直接やりとりするなら、AIであることの開示(第50条1項、明らかな場合を除く)は別にかかる。運転者の疲労の検知は「感情認識」に含まれない(前文18)
根拠
第2条2項(改正後)、附属書I セクションB 14・15・18・19、第6条1項・1a項、第103・104・107・109条、前文18

改正規則2026/1744 第1条AI法 附属書IAI法 第2条AI法 第103条AI法 第104条AI法 第107条AI法 第109条AI法 前文18

金融

高リスクになりうる例
個人の信用力の評価・信用スコアの算定(附属書III 5(b))。生命保険・医療保険での個人のリスク評価と価格設定(5(c))。これらの導入者は基本的権利影響評価(FRIA)の対象
ならない例・別のルール
金融不正の検知は5(b)から明示的に除外。5(b)は自然人(個人)の信用力が対象。5(c)は生命保険・医療保険に限られる(自動車保険などは挙がっていない)。EU金融法令の内部統制ルールに従う金融機関は、監視・ログ保存の一部をその枠組みで満たせる
根拠
附属書III 5(b)(c)、第27条1項、第26条5項・6項

AI法 附属書IIIAI法 第27条AI法 第26条

医療機器

高リスクになりうる例
医療機器規則 (EU) 2017/745(MDR)・体外診断用医療機器規則 (EU) 2017/746(IVDR)の対象で、第三者の適合性評価が必要な医療機器そのもの、またはその安全部品となるAI(2028-08-02から)。適合性評価はMDR/IVDRの手続きの中で、AI法の要件もあわせて審査。救急患者のトリアージに使うAIは附属書III 5(d)
ならない例・別のルール
第三者の適合性評価が要らない製品は第6条1項(b)の条件を満たさない。予約管理など安全に関わらない事務のAIは安全部品に当たらない(第6条1a項)
根拠
附属書I セクションA 11・12、第6条1項・1a項、第43条3項、附属書III 5(d)

AI法 附属書IAI法 第6条改正規則2026/1744 第1条AI法 附属書III

教育

高リスクになりうる例
入学・選抜・振り分けの決定、学習成果の評価(学習の進め方の調整に使う場合を含む)、受けられる教育水準の判定、試験中の不正行為の監視・検知(いずれも教育・職業訓練機関に関わるもの)
ならない例・別のルール
教師の採点傾向からのずれを事後に洗い出すだけ等は第6条3項(c)の例(前文53)。教育機関での感情推定は「禁止」(医療・安全目的を除く)
根拠
附属書III 3(a)〜(d)、第6条3項、前文53、第5条1項(f)

AI法 附属書IIIAI法 第6条AI法 前文53AI法 第5条

製造・機械

高リスクになりうる例
機械規則 (EU) 2023/1230 の対象機械で安全機能を担うAI。改正で、機械は附属書I セクションA からセクションB へ移った。AIの安全要件は、機械規則の附属書IIIに委任法令で追加され、その委任法令は2028-08-02までに適用される。玩具・昇降機・圧力機器などセクションAの製品に組み込むAIは、AI法の要件が直接かかる(2028-08-02)
ならない例・別のルール
安全に関わらない品質管理・性能最適化・自動化・利便性のためだけのAIは安全部品に当たらない。電波・電磁干渉など安全以外の理由だけで第三者評価を受ける製品は第6条1項(b)の条件に当たらない
根拠
附属書I(改正後)、改正規則第3条、第6条1a項・1c項

改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 第3条AI法 附属書I

重要インフラ

高リスクになりうる例
重要デジタルインフラ、道路交通、水・ガス・暖房・電気の供給の管理・運用で、安全部品として使うAI
ならない例・別のルール
安全に関わらない業務効率化・自動化だけのAIは安全部品に当たらない(第6条1a項)。附属書III 2 は基本的権利影響評価(FRIA)の対象外
根拠
附属書III 2、第6条1a項、第27条1項

AI法 附属書III改正規則2026/1744 第1条AI法 第27条

小売・マーケティング

高リスクになりうる例
附属書III の一覧にない用途が多く、原則として高リスクに当たりにくい。ただし、後払い・分割払いの審査などで個人の信用力を評価するなら、附属書III 5(b) に当たる場合がある
ならない例・別のルール
チャットボットはAIであることの開示(第50条1項)。生成AIの出力の機械可読な表示は提供者の義務(第50条2項)。広告などでディープフェイクを使う場合は使う側が開示(第50条4項)。人の弱みにつけ込む・意思決定をゆがめる操作的な手法は禁止(第5条1項(a)(b))
根拠
附属書III 5(b)、第50条、第5条1項(a)(b)

AI法 附属書IIIAI法 第50条AI法 第5条

公共・行政サービス

高リスクになりうる例
公的扶助・医療などの公共サービスの受給資格の判定と、給付の付与・減額・取消・返還請求(附属書III 5(a))。緊急通報の分類・出動の優先付け(5(d))。移民・難民・国境管理(7)、司法の補助(8(a))。公法上の機関はFRIAの対象で、導入者としてEUデータベースへの登録義務もある
ならない例・別のルール
書類の分類・重複の検出など、狭い手続き的な作業だけのAIは第6条3項(a)の例(前文53)。既存の高リスクAIでも、公的機関向けのものは2030-08-02までに対応が必要
根拠
附属書III 5(a)(d)・7・8、第27条、第26条8項、第6条3項、第111条2項

AI法 附属書IIIAI法 第27条AI法 第26条AI法 前文53改正規則2026/1744 第1条

生体認証

高リスクになりうる例
遠隔生体識別、センシティブな属性による生体分類、感情認識(附属書III 1)。適合性評価で第三者機関が関わる場合がある(第43条1項)
ならない例・別のルール
本人が名乗るとおりの人かを確かめるだけの1対1の生体認証(例: 本人確認・入館時の照合)は、附属書III 1(a)から除外。一方、次のものは「禁止」: 顔画像の無差別収集によるデータベース作り、職場・教育機関での感情推定、人種・政治的意見などの推定による分類、法執行目的の公共空間でのリアルタイム遠隔生体識別(例外あり)
根拠
附属書III 1、第3条、第43条1項、第5条1項(e)(f)(g)(h)

AI法 附属書IIIAI法 第3条AI法 第43条AI法 第5条

この表の例は、条文の文言に当てはめた目安で、すべてを挙げたものではありません。実際には、用途・使い方・提供者が定めた「意図された目的」で判断します。欧州委員会の高リスク分類ガイドライン(2026-05-19の案、最終版は未公表)もあわせて確認するとよいでしょう。

出典: AI法 附属書IIIAI法 第6条AI法 前文53AI法 第5条AI法 第26条改正規則2026/1744 第1条AI法 附属書IAI法 第2条AI法 第103条AI法 第104条AI法 第107条AI法 第109条AI法 前文18AI法 第27条改正規則2026/1744 第3条AI法 第50条AI法 第3条AI法 第43条

8. 汎用AI(GPAI)モデル

汎用AIモデルは、幅広い異なる作業をこなせて、さまざまなシステムに組み込めるAIモデルです。多くは大量のデータで学習されます(第3条63号)。欧州委員会のガイドラインは、汎用AIモデルの目安を示しています。目安は、学習に使った計算量が10の23乗FLOP(計算の回数の単位)を超え、言語・文章から画像・文章から動画を生成できるモデルです。

すべての汎用AIモデル提供者の義務(第53条1項)

  • (a) モデルの技術文書を作り、最新に保ち、求めに応じて AI Office・各国当局に出す
  • (b) モデルを組み込むAIシステムの提供者に、能力と限界を理解できる情報・文書を渡す
  • (c) EU著作権法を守る方針を定める(テキスト・データマイニングの権利留保への対応を含む)
  • (d) 学習に使ったコンテンツの十分に詳しい要約を、AI Office のひな形に沿って公表する

無償のオープンソースライセンスで公開し、重み・構造・使い方の情報を公開しているモデルは、(a)(b) の義務が免除されます。ただし、(c)(d) の義務は残ります。システミックリスク(高い影響力を持つ能力に伴い、社会に広く及ぶリスク)のあるモデルは、この免除を受けられません(第53条2項)。EUの外の提供者は、EU域内代理人を書面で選任する必要があります(第54条。オープンソースの例外あり)。

システミックリスクのあるモデル

  • 学習の累積計算量が10の25乗FLOPを超えると「高い影響力を持つ能力」があると推定され、システミックリスクのあるモデルに分類される(第51条2項)。欧州委員会が指定することもある
  • 条件を満たす(満たすと分かった)提供者は2週間以内に欧州委員会へ通知(第52条1項)
  • 追加の義務: 最新の手法によるモデル評価と敵対的テスト、EUレベルのリスクの評価と軽減、重大インシデントの記録と AI Office への報告、十分なサイバーセキュリティ(第55条1項)

行動規範(Code of Practice)

行動規範(Code of Practice)は2025-07-10に公表されました。「透明性」「著作権」の章はすべての汎用AIモデル提供者向けで、「安全性とセキュリティ」の章は最先端のモデルの少数の提供者向けです。欧州委員会とAI評議会は2025-08-01に、行動規範を、提供者が法令順守を示すための適切な自主的手段だと評価しました。提供者は整合規格(欧州委員会の要請で作られる欧州規格)が出るまで、行動規範に頼って順守を示せます(第53条4項・第55条2項)。なお、改正規則 (EU) 2026/1744(2026-07-27発効)で第56条6項が置き換えられ、行動規範の妥当性の評価と公表は欧州委員会(AI評議会の意見を最大限に考慮)が行う形になりました。欧州委員会が実施法(委員会が定める実施のための法令)で行動規範を承認する規定はなくなりました(改正規則 第1条(21)・前文41)。

既存モデルの経過措置と執行

2025-08-02より前に市場に出した汎用AIモデルの提供者は、2027-08-02までに対応すればよいとされています(第111条3項)。欧州委員会は2026-08-02から、罰金を含めて汎用AIモデル提供者の義務を執行できます。罰金の上限は全世界年間売上高の3%か1,500万ユーロの高い方です(第101条)。欧州委員会のガイドラインによると、他社のモデルを改変・ファインチューニングした者が提供者になるのは、モデルの汎用性・能力・システミックリスクが大きく変わる場合だけです。その目安は、改変に使った計算量が元のモデルの学習の計算量の3分の1を超えることです(ガイドライン段落59・60。拘束力はなく、個別の判断が必要です)。

  • 汎用AI(GPAI)モデル 実務ガイド →目安と計算量の見積もり、改変・ファインチューニングで提供者になる目安、学習データ要約のひな形、通知の手続き、行動規範の改正(第56条6項)、日本企業の場面別

出典: AI法 第3条欧州委員会AI法 第53条AI法 第54条AI法 第51条AI法 第52条AI法 第55条改正規則2026/1744 第1条改正規則2026/1744 前文41AI法 第111条AI法 第101条

9. 透明性義務(第50条)

1項

誰が
提供者
何をするか
人と直接やりとりするAIは、相手がAIと話していると分かるように設計する
主な例外
状況から明らかな場合、法律で認められた犯罪捜査用

AI法 第50条

2項

誰が
提供者(汎用AIシステムを含む)
何をするか
音声・画像・映像・文章を生成するAIの出力に、機械可読な形でAI生成・加工だと分かる表示(透かし等)を付ける
主な例外
標準的な編集の補助、入力の内容を大きく変えない場合など

AI法 第50条

3項

誰が
導入者
何をするか
感情認識・生体分類のシステムを使うときは、対象の人に知らせる
主な例外
法律で認められた犯罪捜査用

AI法 第50条

4項

誰が
導入者
何をするか
ディープフェイクの画像・音声・映像は、AIで生成・加工したと開示する。公共の関心事を知らせるために公表する文章も同様
主な例外
芸術・創作・風刺などは鑑賞を妨げない形の開示でよい。文章は、人が確認し編集責任を持つ場合は不要

AI法 第50条

第50条の義務は2026-08-02から適用されています。情報は、遅くとも最初のやりとり・接触の時点で、はっきり分かる形で伝える必要があります(第50条5項)。ただし、2026-08-02より前に市場に出した生成AIの提供者は、2項の表示を2026-12-02までに整えればよいとされています(第111条4項)。表示・ラベル付けの実務については、欧州委員会がEUレベルの行動規範づくりを促します。行動規範が不十分なら、欧州委員会は実施法令で共通ルールを定められます(改正後の第50条7項)。違反の罰金の上限は1,500万ユーロか全世界年間売上高の3%の高い方です(第99条4項(g))。

  • 透明性の義務 実務ガイド →各項の対象と例外、欧州委員会の第50条ガイドラインの「当たる例・当たらない例」、表示・告知のしかた、行動規範の状況、日本企業の場面別

出典: AI法 第50条AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条AI法 第99条

10. 罰則と執行

禁止されるAI(第5条)の違反

罰金の上限(高い方)
3,500万ユーロ/全世界年間売上高の7%
根拠
第99条3項

AI法 第99条

提供者・代理人・輸入者・販売者・導入者の義務、第50条の透明性義務、ノーティファイドボディ(第三者の適合性評価機関)の義務などの違反(改正で第25条2項・4項も追加)

罰金の上限(高い方)
1,500万ユーロ/3%
根拠
第99条4項

AI法 第99条改正規則2026/1744 第1条

ノーティファイドボディや当局への不正確・不完全・誤解を招く情報の提供

罰金の上限(高い方)
750万ユーロ/1%
根拠
第99条5項

AI法 第99条

汎用AIモデル提供者の違反(欧州委員会が科す)

罰金の上限(高い方)
1,500万ユーロ/3%
根拠
第101条

AI法 第101条

中小企業(スタートアップを含む)は、金額と割合の「低い方」が上限です(第99条6項)。改正で、中堅企業(SMC)にも同じ「低い方」ルールが入りました。対象は第99条4項・5項の罰金です(第99条6a項)。罰金の額を決めるときは、違反の性質・重大さ・期間や企業の規模、協力の度合いなどを考えます(第99条7項)。

罰則のルールは各加盟国が定めます(第99条1項)。各国は市場監視当局と通知当局を置きます(第70条)。汎用AIモデルは、欧州委員会の AI Office が監督します。改正後は、AI Office が次のAIシステムも専属で監督します。同じ提供者(グループ)のモデルを基盤とするAIシステムと、超大規模オンラインプラットフォーム等に組み込まれたAIシステムです。AI Office はこれらについて調査を行い、罰金・履行強制金を科せます(例外あり。第75条1項、第75a〜75c条)。罰則の章は2025-08-02から適用されています(第113条(b)。第101条は2026-08-02から)。

出典: AI法 第99条改正規則2026/1744 第1条AI法 第101条AI法 第70条AI法 第113条欧州委員会

11. 日本企業が対象になるケースと「今やっておくこと」

EU向けにAI搭載のソフト・SaaSを販売・提供する

立場
提供者(第2条1項(a))
主な確認ポイント
高リスク・透明性義務に当たるか。高リスクならEU域内代理人の選任(第22条)

AI法 第2条AI法 第22条

EU子会社・拠点で業務にAIを使う

立場
その拠点が導入者(第2条1項(b))
主な確認ポイント
使い方が高リスクに当たるか、第26条の義務、AIリテラシー(第4条)

AI法 第2条AI法 第26条AI法 第4条

日本でAIを動かし、その出力をEUで使う(例: EUの顧客・従業員に関する判断の材料をつくる)

立場
提供者・導入者として対象になりうる(第2条1項(c))
主な確認ポイント
出力がEUで使われるかどうかの整理

AI法 第2条

AIを組み込んだ製品(機械・医療機器・玩具・車両など)をEUへ輸出する

立場
製品製造者・提供者(第2条1項(e))
主な確認ポイント
附属書I のどのセクションの法令が対象か。セクションAなら2028-08-02からAI法の要件が直接かかる

AI法 第2条AI法 附属書I改正規則2026/1744 第1条

汎用AIモデルをEUで提供する

立場
汎用AIモデルの提供者(第2条1項(a))
主な確認ポイント
第53条の義務、EU域内代理人(第54条)、既存モデルは2027-08-02まで

AI法 第2条AI法 第53条AI法 第54条AI法 第111条

日本国内だけで使い、EUで提供もせず、出力もEUで使われない

立場
原則として第2条1項のどれにも当たらない
主な確認ポイント
EUの顧客・従業員・取引が将来生じたときに見直す

AI法 第2条

今やっておくこと(法的助言ではありません)

  • 自社のAIを棚卸しする(どこで作り、どこで使い、出力がどこで使われるか)
  • AIごとに自社の立場(提供者・導入者・輸入者・販売者)を決める。名前を付ける・大きく変える・用途を変えると提供者になる点に注意
  • 禁止(第5条)に当たる使い方がないか確認する。2026-12-02 に加わる性的ディープフェイク等の禁止も含める
  • 附属書III・附属書I に当てはめる。第6条3項で高リスクから外すなら、判断を文書に残す
  • チャットボットのAI開示、生成物の機械可読な表示、ディープフェイクの開示(第50条)を点検する
  • 組み込んでいる他社の汎用AIモデル・APIについて、提供元の対応状況と、契約で受け取れる情報を確認する
  • 社員などのAIリテラシーを高める取り組みを用意する(第4条)
  • 高リスクAIや汎用AIモデルをEUに提供するなら、EU域内代理人を検討する
  • 日程表の期限(2026-12-02、2027-08-02、2027-12-02、2028-08-02)を社内の計画に入れる

出典: AI法 第2条AI法 第22条AI法 第26条AI法 第4条AI法 附属書I改正規則2026/1744 第1条AI法 第53条AI法 第54条AI法 第111条AI法 第3条AI法 第25条AI法 第5条AI法 第6条AI法 附属書IIIAI法 第50条

12. 他国との違い

EU AI法の特徴は、横断的な法律でリスク区分ごとに義務と高額の罰金を定めている点です。Atlas の各国ページでは、ほかの国・地域の規制をEUとの違いで整理しています。以下は各国ページの要約で、根拠の出典は各国ページにあります。

出典: 欧州委員会AI法 第99条

13. よくある質問

日本国内だけでAIを使っているなら、対象になりますか?

EUで提供せず、EU域内の拠点で使わず、出力もEUで使われないなら、原則として対象になる条件(第2条1項)のどれにも当たりません。ただし、日本で動かすAIでも、その出力がEUで使われる場合は対象になりえます(第2条1項(c))。

AI法 第2条

ChatGPT などの生成AIを社内で使うだけでも関係ありますか?

EU域内の拠点で使えば対象になります。使う会社は「導入者」です。文書作成・要約などの業務効率化は、通常は附属書III の用途に当たりません。この場合の主な義務は、AIリテラシーの取り組みです(第4条)。ディープフェイクや、公共の関心事を知らせる文章を公表するときは、開示も必要です(第50条4項)。一方、採用の評価などに使うと高リスクになる場合があります。汎用AIシステムの用途を変えて高リスクにすると、自社が提供者とみなされます(第25条1項(c))。

AI法 第3条AI法 第4条AI法 第50条AI法 第25条AI法 附属書III

オープンソースのAIは対象外ですか?

無償のオープンソースライセンスで公開したAIシステムは、原則として対象外です。ただし、高リスクAIと、禁止(第5条)・透明性(第50条)に当たるものは対象です(第2条12項)。汎用AIモデルは、技術文書と下流向け情報(モデルを組み込む提供者への情報)の義務が免除されます。ただし、著作権方針と学習データの要約の公表の義務は残ります。システミックリスクのあるモデルには、免除はありません(第53条2項)。

AI法 第2条AI法 第53条欧州委員会

罰則はいつから科されますか?

罰則の章は2025-08-02から適用されています(第113条(b))。禁止(第5条)は2025-02-02から適用中で、2026-12-02に追加の禁止が始まります。汎用AIモデル提供者への欧州委員会の罰金(第101条)は2026-08-02からです。高リスクAIの義務そのものは2027-12-02(附属書III)・2028-08-02(附属書I)から適用されます。

AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条欧州委員会

2026年8月2日には何が始まったのですか?

EU AI法の一般適用日で、第50条の透明性義務などが適用されました。欧州委員会の説明では、この日から AI Office と加盟国当局が規則の実施を担います。附属書III の高リスクAIの義務もこの日の予定でしたが、改正で2027-12-02へ延期されています。

AI法 第113条欧州委員会改正規則2026/1744 第1条

高リスクかどうかは誰が判断するのですか?

まずは提供者が、意図された用途に照らして判断します。附属書III の用途なのに、第6条3項の例外で高リスクではないと考える場合もあります。そのときは、市場に出す前に判断を文書化し、EUデータベースに登録します。当局に求められたら、その文書を出します(第6条4項)。欧州委員会の分類ガイドラインは2026-05-19に案が出ており、最終版は未公表です。

AI法 第6条欧州委員会

生成AIで作った広告画像には、表示が必要ですか?

生成AIの提供者(サービス側)には、出力に機械可読な表示を付ける義務があります(第50条2項)。使う会社の側は、その画像が「ディープフェイク」に当たる場合に、AIで生成・加工したことを開示する必要があります(第50条4項)。ディープフェイクとは、AIで生成・加工した画像・音声・映像のうち、実在の人・物・場所などに似ていて本物だと誤解させるものです(第3条60号)。芸術・風刺などの作品の一部なら、鑑賞を妨げない形の開示でよいとされています。

AI法 第50条AI法 第3条

出典: AI法 第2条AI法 第3条AI法 第4条AI法 第50条AI法 第25条AI法 附属書IIIAI法 第53条欧州委員会AI法 第113条改正規則2026/1744 第1条AI法 第6条

14. 出典一覧・更新履歴

更新履歴

  • 初版。条文(規則 (EU) 2024/1689 と改正規則 (EU) 2026/1744)と欧州委員会の公式ページで確認した範囲で作成
  • 6章(高リスクAI)などを要点にまとめ、詳しい手続きは「高リスクAIの書類と手続き 実務ガイド」へ分けた
  • 5章(禁止されるAI)から「禁止されるAI 実務ガイド」への入口を追加
  • 9章(透明性義務)から「透明性の義務 実務ガイド」への入口を追加
  • 1章(誰が対象か)と6章(高リスクAI)から「AIを使う会社(導入者)向け 実務ガイド」への入口を追加
  • 8章(汎用AIモデル)から「汎用AI(GPAI)モデル 実務ガイド」への入口を追加。改変した者が提供者になる条件をガイドラインどおり(大きな変化が条件、計算量の3分の1は目安)に直し、第56条6項の改正(2026-07-27)を追記

このページは一般的な情報の整理で、法的助言ではありません。条文の当てはめは事業ごとに変わるため、最終判断は一次資料と専門家の確認を経てください。