第6章で、担当が決まりました。次は、その担当が回す仕事が9つある、という話です。

「回す」とは、安全なAIを選んで終わりではなく、法規制の確認から社内の相談への対応までを、決まった仕事として続けることです。

この章で決めるのは、その9つが何で、誰がやるのか。

AIのルール作りは、専門家がいないと始められない仕事ではありません。決まった9つの仕事を、1年かけて回すことです。

この仕事は、誰もやりたがらない

担当が決まらない理由は、単純です。めんどくさいし、AIは新しいことだから大変そうだと、みんな分かっているからです。

ルール作りを始めたころ、まず揉めたのは「法規制の調査を誰がやるか」でした。

ある部門からは、こう返ってきました。

うちはAIの技術的なことに答えるだけであって、法規制はうちの役割じゃない

気持ちは分かるんです。担当になるということは、責任を持つということ。法規制の対応が漏れたら、それは担当の責任になる。

そんな役、誰もやりたくない。工数もかかりますしね。

担当がどう決まったかは、第6章の法務との綱引きで書いたとおり。

結局この仕事は、AI管理チームにいたぼくが引き受けました。誰かがやるしかなかったからです。

あなたの会社で誰もやっていないなら、話は同じです。手を挙げた人が、担当になります。

これから読むのは「使う側」です

このコースは、AIを社内で「使う」側を軸にします。

会社のAIガバナンスには、2方向あります。

  • AIを載せた製品やサービスを「作る」側(国のAI事業者ガイドラインで言う、AI開発者とAI提供者)。発売する国の規制・用途・技術要件の話になって、正直かなり重い
  • AIを社内で「使う」側(同じくAI利用者)。Copilot ChatやChatGPTを、社内でどう安全に使うか

AIをどう扱うかの分岐図。製品に載せて売る場合は発売国・用途・技術要件を確認し、社内で使う場合は用途・サービス・機密レベルを確認する。社内で使う側に「この章の読者はこっち」の注記がある

最初に任されるのは、たいてい「使う」側です。だからこのコースは使う側を軸に進めて、作る側は第四部でまとめて扱います。

押さえる中身は、第1章で見た倫理・セキュリティ・契約の3点です。

このコースで渡すのは、その先です。「3点を、誰が・いつ・どの順番で回すのか」。

1年でやることは、9個です

1年で回す仕事がこれです。順番に進めるものではなく、並行して回します。

  1. 法規制を確認する
  2. 世間と他社の動きを見る
  3. 新しいAIを見つけたら止める
  4. 従業員に教育する
  5. 活用状況と点検を年1回聞く
  6. 基準を改定する
  7. 問い合わせに即答する
  8. 申請を受ける
  9. 表からはみ出したら審議する

元は、前の職場で整理したもの。この本用に並べ直しています。

1年で回す9つの仕事を、調べる・教える・点検する・直す・答えるの5つの列に分けて示した図解。調べるに法規制確認・世間と他社の動き・新しいAIを止めるの3つ、教えるに従業員へ教育、点検するに活用状況と点検、直すに基準の改定、答えるに問い合わせに即答・申請を受ける・はみ出しは審議への3つ。矢印はなく、順番でなく並行して回すことを表す。各箱の下に対応する章番号がある

ガバナンスという言葉の圧に比べて、中身は地味です。調べて、教えて、点検して、直して、聞かれたら答える。

ぼくはこの9個を、1年のスケジュールに置きました。

多くの会社では、役員も入る会議で月次か四半期にガバナンスの報告があります。9個を回した結果を、そこで出せる形にしておきます。

ただし、ひとりで始められても、ひとりでは完結しません。基準を決める段階で、必ず他の部門と当たる。

この9つを、1つずつ章にしました。次の章は、1番目の法規制からです。